「借金してアパートを建てれば相続税が安くなる」という話は広く知られていますが、節税効果の仕組みと同時に、収支が悪化するリスクや税務否認のリスクも正しく理解しておく必要があります。
なぜアパート経営が節税になるのか
現金1億円をそのまま持っているより、その現金で土地を購入し、アパートを建てて賃貸に出すほうが、相続税評価額を大きく圧縮できます。仕組みは主に3段階です。
- ①土地の評価減:土地の相続税評価額は時価の8割程度。さらに賃貸に出すと「貸家建付地」として評価額がさらに下がります
- ②建物の評価減:建物の相続税評価額は建築費の5〜6割程度。賃貸用建物はさらに借家権割合分(30%×賃貸割合)が減額されます
- ③小規模宅地等の特例:要件を満たせば、貸付事業用宅地等として200㎡まで評価額をさらに50%減額できます
さらに、建築資金を借入で賄った場合、その借入金残高は相続財産から差し引く「債務控除」の対象になるため、評価減と債務控除の両方の効果で、相続税負担を大きく軽減できる可能性があります。
借入による節税効果は「時間とともに減る」
借入金による評価圧縮効果は、返済が進むにつれて借入金残高(=債務控除額)が減っていくため、年数の経過とともに小さくなっていきます。借入直後に相続が発生すれば効果は最大ですが、借入から相続発生までの期間が長ければ、返済が進んで効果が薄れ、極端な場合はローンを完済した後に相続が発生し、借入による節税効果がゼロになることもあります。相続がいつ発生するかは予測できないため、この点は「運任せ」の側面があることを理解しておく必要があります。
節税額より収支の悪化が大きくなるリスク
アパート経営の本質は不動産賃貸事業であり、相続税対策はあくまで副産物です。空室が続けば家賃収入が減り、借入金の返済原資が不足します。金融機関や建設会社が提示する長期の収支シミュレーションは、空室率や修繕費を楽観的に見積もっていることも少なくありません。「節税はできたが、毎月の収支が赤字で、節税額以上に資産が目減りした」という事例は珍しくなく、次のような要因を慎重に見極める必要があります。
- 人口減少・世帯数減少による長期的な賃貸需要の縮小
- 築年数の経過に伴う修繕費の増加と、実際の入居率の低下
- 家賃相場の下落リスク
- 不良入居者への対応、管理の手間
総則6項による否認リスク
相続開始の直前に多額の借入をして不動産を購入・建築し、相続後すぐに売却するなど、租税回避の意図が明白なケースでは、財産評価基本通達の「総則6項」により、路線価等による低い評価額が否認され、鑑定評価額などの高い時価で課税されることがあります。過去の最高裁判決でも、行き過ぎた借入・不動産購入による節税策が否認された事例があり、あくまで実需(実際に賃貸経営として成り立つ物件かどうか)とのバランスが重要です。
遺産分割・納税資金の問題
アパートのような不動産は現金と違って分割しにくく、複数の相続人で共有名義にすると、将来の売却・修繕・建て替えの際に全員の同意が必要になり、トラブルの原因になりやすい財産です。また、相続財産の大半が不動産で現金が少ない場合、相続税の納税資金が不足するリスクもあります。生命保険の活用や代償分割の準備など、節税だけでなく遺産分割・納税資金の対策も並行して検討することが重要です。
実務のポイント
アパート経営による相続税対策は、正しく行えば大きな節税効果がありますが、収支計画の精度、借入と相続発生タイミングの不確実性、総則6項による否認リスクなど、慎重に検討すべき要素が多い手法です。金融機関や建設会社の提案をそのまま受け入れるのではなく、独立した税理士に収支シミュレーションの妥当性を検証してもらい、遺産分割・納税資金対策も含めた総合的な計画を立てることをおすすめします。