暗号資産(仮想通貨)やネット証券、サブスクリプションなど、通帳のように残高が目に見えない「デジタル遺産」は、存在に気づかれないまま放置されるリスクがあります。暗号資産は相続税の課税対象であり、評価方法にも独特のルールがあります。
暗号資産の評価方法
暗号資産は相続開始日(死亡日)の時価で評価します。評価方法は「活発な市場が存在するか」によって異なります。
- 活発な市場が存在する場合(ビットコイン等の主要な暗号資産):相続人が利用する暗号資産交換業者が公表する、課税時期(相続開始日)における取引価格で評価します。取引所発行の残高証明書に記載された価格を使うのが一般的です
- 活発な市場が存在しない場合(新興・マイナーな暗号資産):客観的な相場が成立していないため、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して個別に評価します
複数の取引所で同じ暗号資産を保有している場合、取引価格が低いほうを評価額として選ぶことができます。評価した金額は相続税申告書第11表の付表4に記載します。
パスワード不明でも課税される
「パスワードや秘密鍵が分からないので相続税は課税されないはず」という考えは通用しません。国税庁の見解では、パスワードを知っているかどうかは本人にしか分からない主観の問題であり、その真偽を客観的に判定することは困難とされています。そのため、被相続人が暗号資産を保有していた事実と時価が確認できれば、実際にアクセスできるかどうかにかかわらず相続税の課税対象になります。資産を引き出せないのに納税義務だけが生じるという事態を避けるためにも、生前からのアクセス情報の管理が重要です。
国内取引所での相続手続き
- 被相続人が利用していた取引所を特定し、死亡の事実を連絡する
- 取引所から案内された必要書類(戸籍謄本、遺産分割協議書、相続人の本人確認書類等)を提出
- 取引所が相続開始日の残高証明書を発行
- 暗号資産のまま、または日本円に換金して相続人の口座へ移管
国内の主要取引所は、ID・パスワードが分からなくても、上記の書類提出により相続手続きを進められる体制を整えています。一方、海外の取引所やコールドウォレット(オフラインの個人管理)で保有している場合は、秘密鍵がなければ資産を回収できず、外国語での手続きが必要になることもあります。
売却時は「雑所得」扱いで取得費加算が使えない
相続した暗号資産を売却して利益が出た場合、その利益は「雑所得」として所得税が課税されます。不動産等の売却で使える「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」は、暗号資産には適用できません。相続税を納めた上に、売却益にも所得税がかかるため、想定より税負担が重くなることがあります。
SNSアカウント・サブスク・ポイントの扱い
- ネット銀行・ネット証券:通常の預貯金・株式と同様に相続税の課税対象になります
- 電子マネー:相続できるかどうかはサービスの規約によって異なります
- ポイント:多くのサービスで原則として相続の対象外(一身専属的な権利)とされています
- SNSアカウント・サブスクリプション:財産的価値は通常ありませんが、解約手続きを怠ると課金が続くため、早めの整理が必要です
生前にできる備え
セキュリティ上、パスワードや秘密鍵をそのまま遺言書に書くことは推奨されませんが、「どの取引所・サービスを利用しているか」というリストだけでもエンディングノート等に残しておくと、相続人が資産の存在に気づけずに放置してしまうリスクを減らせます。取引量が多い場合は、相続を見据えて国内の登録済み取引所に資産をまとめておく、あるいは生前に現金化しておくことも選択肢になります。
実務のポイント
デジタル遺産は、財産の存在自体に気づかれにくく、申告漏れにつながりやすい分野です。相続税申告の際は、被相続人のスマートフォンやパソコンのブックマーク、メールの受信履歴なども確認し、口座やアカウントの見落としがないか丁寧に調査することが重要です。評価方法が複雑な暗号資産が含まれる場合は、早めに税理士に相談することをおすすめします。