個人事業主が亡くなった場合、会社員の相続とは異なり、事業用資産の承継、廃業・開業届の提出、青色申告の再申請など、事業に関する独自の手続きが数多く発生します。相続税の申告と並行して対応が必要です。
個人事業は「株式」のように承継できない
法人であれば株式を承継すれば経営権もそのまま引き継がれますが、個人事業主の場合は「事業主」という人格そのものが被相続人にひもづいているため、事業を継続する場合であっても、いったん被相続人の廃業手続きを行い、相続人が新たに開業手続きを行う必要があります。
主な届出と提出期限
届出書 | 提出期限の目安 |
|---|---|
個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届) | 死亡日から1ヶ月以内 |
個人事業の開業・廃業等届出書(相続人の開業届) | 事業を引き継ぐ場合、死亡日から1ヶ月以内 |
事業廃止届出書(消費税課税事業者の場合) | 速やかに(明確な期限の定めなし) |
給与支払事務所等の開設・廃止届出書(従業員がいる場合) | 死亡日(廃止事由発生日)から1ヶ月以内 |
所得税の青色申告承認申請書(相続人が新規に申請する場合) | 死亡日に応じて異なる(下記参照) |
青色申告は自動的に引き継がれない
被相続人が青色申告をしていても、その承認は相続人に自動的には引き継がれません。事業を引き継ぐ相続人が青色申告特別控除などの優遇を受けたい場合は、改めて「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要です。提出期限は被相続人の死亡日によって異なります。
- 1月1日〜8月31日に死亡:死亡日から4ヶ月以内
- 9月1日〜10月31日に死亡:その年の12月31日まで
- 11月1日〜12月31日に死亡:翌年2月15日まで
被相続人が白色申告だった場合や、相続人がすでに別の事業で青色申告をしている場合は、通常の新規申請と同様の期限(原則3月15日まで、または事業開始から2ヶ月以内)になります。
準確定申告も忘れずに
個人事業主は毎年確定申告をしているため、死亡した年の1月1日から死亡日までの所得についても、相続人が代わりに申告する「準確定申告」が必要です。申告期限は相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内で、相続税の申告期限(10ヶ月)とは別の期限管理が必要です。
事業用資産の評価と遺産分割の論点
店舗・設備・商品在庫・営業用車両・売掛金といった事業用資産は、被相続人の個人財産と合わせて相続財産となり、それぞれ相続税評価の対象です。事業を引き継ぐ相続人がこれらの資産をまとめて取得できるよう、遺産分割協議の段階で調整が必要になります。事業用の借入金・買掛金といった負債も相続の対象であり、債務超過が疑われる場合は相続放棄・限定承認も選択肢になります。
個人版事業承継税制
青色申告(正規の簿記)を行っていた個人事業者(不動産貸付業等を除く)の事業用資産を、経営承継円滑化法の認定を受けた後継者が相続・贈与により取得した場合、その事業用資産にかかる相続税・贈与税の納税を猶予し、後継者の死亡等により最終的に免除する「個人版事業承継税制」があります。2019年から2028年までの相続・贈与が対象で、事前に「個人事業承継計画」の提出が必要です。
実務のポイント
個人事業主の相続は、廃業・開業届、青色申告承認申請、準確定申告、相続税申告と、期限の異なる複数の手続きが同時並行で進みます。事業を継続するか廃業するかの判断は早めに行い、税理士と連携して届出漏れがないように対応することが、後々の税務上の不利益を避けるために重要です。