農業を営んでいた家族から農地を相続すると、通常の評価額のままでは高額な相続税が発生し、農業の継続が難しくなることがあります。これを防ぐために設けられているのが「農地の納税猶予制度」です。
農地の納税猶予制度とは
相続人が農地を相続し、引き続き農業を営む場合、通常の路線価等による評価額と、農業投資価格(農業用として売買される場合の低い価格)で評価した場合の相続税額の差額について、納税が猶予されます。農業投資価格は都道府県ごとに国税庁が定めており、通常の宅地評価額の数百分の1程度と非常に低く設定されています。
相続人が一生涯(三大都市圏の特定市の一部地域では20年間)営農を継続すれば、猶予されていた税額はそのまま免除されます。事実上「納税免除」に近い制度と考えて差し支えありません。
主な適用要件
- 被相続人:死亡の日まで農業を営んでいた人、または特定貸付け等を行っていた人
- 農地:被相続人が農業に使用していた農地で、申告期限までに遺産分割されているもの
- 相続人:相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も継続する見込みがあること
三大都市圏の特定市の市街化区域内にある農地で、生産緑地や田園住居地域内にないものは、原則としてこの制度の対象になりません。相続時精算課税制度を使って生前贈与された農地も対象外です。
手続き:農業委員会の証明が必要
納税猶予の適用を受けるには、相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに、農業委員会が発行する「相続税の納税猶予に関する適格者証明書」を添付して申告する必要があります。証明書の交付には申請から1ヶ月程度かかることもあるため、早めの準備が重要です。あわせて、猶予される税額と利子税に見合う担保(通常は対象の農地自体)の提供も必要です。
猶予が打ち切られるケース
猶予を受けた農地の20%を超える部分を譲渡・転用・貸付けした場合、猶予されていた税額の全額に利子税を加えて納付しなければなりません。20%以下であれば、その部分に対応する猶予税額のみ納付し、残りの農地については猶予が継続されます。「一部担保」で猶予を受けている場合は、3年ごとに継続届出書と農業委員会の証明書の提出も必要です。
山林を相続した場合
山林(森林の土地)にも相続税が課税されますが、農地のような専用の納税猶予制度とは別の枠組みで扱われます。山林の評価は、宅地への転用可能性や周辺の利用状況によって「純山林」「中間山林」「市街地山林」に区分され、それぞれ異なる評価方法が用いられます。相続開始から一定期間内に地目変更や届出が必要になるケースもあるため、通常の宅地とは異なる手続きの知識が求められます。
実務のポイント
農地の納税猶予は節税効果が非常に大きい一方、要件が細かく、将来にわたる継続要件も伴う制度です。農業を継続する意思が明確な場合は積極的に検討する価値がありますが、将来的に農地を手放す可能性がある場合は、猶予打ち切り時のリスクも含めて慎重に判断することが重要です。