遺言書には、財産の分け方を定める法的な部分(法定遺言事項)とは別に、家族への想いを自由に書ける「付言事項」を加えることができます。法的効力はありませんが、遺産分割を巡るトラブルを防ぐ実務上の効果は大きいとされています。

付言事項とは

付言事項は、遺言者の感謝の気持ちや、なぜそのような財産の分け方にしたのかという理由、葬儀の希望などを自由に書ける部分です。「附言事項」と表記されることもあり、読み方は同じ「ふげんじこう」です。法定遺言事項と異なり法的拘束力はなく、書き方の形式にも決まりはありません。

付言事項が果たす3つの役割

  • 財産の分け方への理解を促す:法定相続分と異なる配分にした場合、その理由を説明することで、取り分の少ない相続人の不満を和らげる効果が期待できます
  • 遺言執行者への意図の伝達:専門家が遺言執行者になる場合、法定遺言事項だけでは分からない背景事情を汲み取る手助けになります
  • 法的紛争の抑止:遺留分侵害額請求や遺言無効の主張など、法的手段に訴えるハードルを心理的に高める効果があるとされています

ただし、付言事項に「遺留分を請求しないでほしい」と書いても、法的な拘束力はなく、相続人がそれに従う義務はありません。あくまで気持ちに訴えかけるものである点は理解しておく必要があります。

書く場所と形式

財産の分配内容を記載した後、署名・押印の前に書くのが一般的です。自筆証書遺言の場合、本文は自書が必要(財産目録は例外)なため、付言事項も自書することになります。堅苦しい法律用語を使う必要はなく、「一郎、いつも支えてくれてありがとう」といった、手紙のような自然な言葉遣いで問題ありません。

よく書かれる内容

  • 家族への感謝の言葉(最も多い)
  • 財産の配分を決めた理由(介護をしてくれた、同居していた等)
  • 遺言を作成した経緯・想い
  • 葬儀・お墓に関する希望
  • 遺留分を請求しないでほしいという願い

配偶者に多めに残す場合の例文イメージ

「長年連れ添ってくれた妻には、私が亡き後も安心して暮らしてほしいという思いから、自宅と預貯金の大半を相続させることにしました。子どもたちには、その分少なくなりますが、お母さんを支えて仲良く過ごしてください」といったように、理由と家族への願いをセットで書くと、意図が伝わりやすくなります。

同居の相続人に多めに残す場合の例文イメージ

「長い間、同居して母の介護をしてくれた次男に、感謝の気持ちを込めて自宅を相続させることにしました。長男には、この決定に異議を唱えず、これからも兄弟仲良く助け合ってほしいと願っています」というように、具体的な貢献の内容に触れることで、他の相続人の理解を得やすくなります。

避けるべき内容

特定の相続人への非難や恨み言は書かないほうがよいとされています。遺言者はすでに亡くなっており、その場で真意を説明できないため、否定的な文章だけが独り歩きし、かえって相続人間の対立を深める恐れがあります。相続人を廃除する場合の理由説明など、やむを得ず厳しい内容を書く必要がある場合も、事実を淡々と記載し、感情的な非難は避けるのが望ましいとされています。

実務のポイント

付言事項を実際に書いている人は、全体の1割程度にとどまるとされていますが、法定相続分と異なる配分をする場合ほど、その効果は大きくなります。財産の分け方だけでなく、なぜそう決めたのかという理由と家族への想いを書き添えることで、遺言者の意図が伝わりやすくなり、円満な相続につながりやすくなります。