「贈与税は相続税より税率が高い」というのは事実ですが、それだけで「相続の方が得」とは言い切れません。一度にまとめて渡すか、少しずつ長期間に分けて渡すかで、結論は大きく変わります。

同じ金額を一度に渡すなら相続税が有利

例えば1億円の財産を子1人に一度に渡す場合で比較すると、相続税は約1,220万円、贈与税(特例税率)は約4,800万円と、税額に大きな差が出ます。贈与税は、生前贈与による相続税逃れを防ぐ目的で、意図的に相続税より高い税率が設定されているためです。

分割して長期間贈与すれば贈与税が有利になる

贈与税には毎年110万円の基礎控除があり、これは受け取る人(受贈者)ごとに使えます。同じ1億円でも、長期間・複数人に分けて贈与すれば、税負担を大きく圧縮できます。

  • 1人に毎年110万円ずつ贈与すれば、贈与税はかからない(ただし相続開始前一定期間の持ち戻しに注意)
  • 年間200万円の贈与にかかる贈与税は9万円程度、300万円でも約19万円と、相続税の最低税率(10%)を下回る負担で収まる
  • 子・孫が5人いれば、1人あたり110万円として年間550万円まで非課税で移転できる

「渡す回数」と「渡す相手の人数」を増やせるのが生前贈与の強みであり、相続では一度にしか財産を移転できません。

生前贈与加算に注意

相続開始前一定期間内(2026年時点は3年以内、段階的に7年以内へ延長中)の贈与は、相続財産に持ち戻して相続税を計算し直します。つまり、贈与者が高齢になってから始めた贈与は、相続開始が近いタイミングだと節税効果が薄れます。逆に、贈与者が若く健康なうちから長期間かけて計画的に贈与すれば、持ち戻し期間を過ぎた分は完全に相続財産から切り離され、大きな節税効果を得られます。

世代を飛ばす贈与(孫への贈与)の優位性

孫は通常、法定相続人ではないため、生前贈与加算(相続開始前の持ち戻し)の対象になりません(代襲相続人・孫養子・生命保険金の受取人等の場合を除く)。「親→子→孫」と2世代で課税されるところを、祖父母から孫へ直接贈与すれば、課税を1回で済ませられる効果があります。ただし、孫が相続・遺贈で財産を受け取る場合は相続税の2割加算の対象になる点には注意が必要です。

生前贈与が特におすすめなケース

  • 贈与者が健康で若い場合:持ち戻し期間を超えて長期計画を立てやすい
  • 収益不動産を持っている場合:贈与後の家賃収入は受贈者のものになり、将来の相続財産の増加を防げる
  • 子・孫の人数が多い場合:基礎控除110万円を人数分使えるため、非課税で移転できる総額が大きくなる

相続時精算課税制度という選択肢

60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与では、累計2,500万円まで贈与税がかからない相続時精算課税制度も選べます。2024年の改正で、この制度にも年110万円の基礎控除が新設され、この基礎控除部分は相続財産への持ち戻し対象外です。ただし、一度選択すると暦年課税制度には戻れないため、慎重な検討が必要です。

実務のポイント

「相続税と贈与税、どちらが得か」に一律の答えはなく、財産額・贈与できる期間・相続人や受贈者の人数によって最適解は変わります。将来の相続税負担が大きいと見込まれる場合ほど、早期から計画的な生前贈与を始めるメリットが大きくなるため、財産状況が固まった段階で一度シミュレーションを受けておくことをおすすめします。