「相続税は資産家だけの話」というイメージがありますが、実際に申告・納税が必要になるのは全体の1割程度です。自分のケースで相続税がかかるかどうかを判断する基本的な考え方を整理します。

基本の判定:正味の遺産総額と基礎控除の比較

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

「正味の遺産総額」(プラスの財産+みなし相続財産-非課税財産-債務・葬式費用)が、この基礎控除額以下であれば、相続税はかからず、原則として申告も不要です。

具体例

法定相続人

基礎控除額

この額以下なら申告不要

配偶者のみ(1人)

3,600万円

3,600万円

配偶者+子1人(2人)

4,200万円

4,200万円

配偶者+子2人(3人)

4,800万円

4,800万円

配偶者+子3人(4人)

5,400万円

5,400万円

例えば、法定相続人が配偶者と子1人(基礎控除4,200万円)で、遺産が土地の評価額1,000万円と預金3,000万円の合計4,000万円であれば、基礎控除以下となり相続税はかからず、申告も不要です。基礎控除の計算では、相続放棄をした人がいてもその人を含めた人数で計算し、養子は実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までしかカウントできない点に注意が必要です。

見落としやすい加算要素

「手元に残っている財産だけ」で判断すると、実際には基礎控除を超えているのに見落としてしまうことがあります。次の要素も忘れずに合算する必要があります。

  • みなし相続財産:生命保険金・死亡退職金は、非課税枠(500万円×法定相続人の数)を超えた部分を加算します
  • 生前贈与の持ち戻し:相続開始前一定期間内(2026年時点は3年以内、段階的に7年以内へ延長中)の贈与は、金額の大小にかかわらず相続財産に加算します
  • 名義預金:子や孫名義でも実質的に被相続人が管理していた預金は、相続財産として計上する必要があります

特例で税額ゼロになる場合は「申告が必要」なことがある

基礎控除を超えていても、次の特例を適用して税額がゼロになる場合、その特例の適用条件として相続税の申告書提出が必須です。「税額がゼロだから申告不要」と自己判断するのは危険です。

  • 配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで)
  • 小規模宅地等の特例(自宅等の評価額を最大80%減額)
  • 農地の納税猶予の特例
  • 相続財産を公益法人等に寄付した場合の非課税の特例

一方、未成年者控除・障害者控除・相次相続控除・外国税額控除の4つは、これらを適用して税額がゼロになった場合、申告は不要とされています。

申告不要でもやるべき手続き

相続税の申告が不要な場合でも、遺産分割協議書の作成や、不動産があれば相続登記(2024年4月から義務化)は別途必要です。相続税の申告不要とこれらの民事上の手続きは別物である点に注意が必要です。

実務のポイント

「申告不要」と思い込んでいても、不動産の評価額や名義預金の有無によって、実際には基礎控除を超えていたというケースは少なくありません。財産に不動産や非上場株式が含まれる場合、評価が複雑になりやすいため、判断に迷う場合は税理士に一度確認しておくことをおすすめします。