海外移住や海外赴任が絡む相続では、「誰が」「どこに」住んでいるかによって課税範囲が大きく変わります。特に一定額以上の有価証券等を保有する場合は「国外転出時課税制度(出国税)」にも注意が必要です。

相続税の納税義務者は4区分

相続税の課税範囲は、被相続人・相続人それぞれの住所(国内・国外)や国籍によって、次の4区分に分かれます。

区分

課税対象の範囲

居住無制限納税義務者

国内・国外すべての財産

非居住無制限納税義務者

国内・国外すべての財産

居住制限納税義務者

国内財産のみ

非居住制限納税義務者

国内財産のみ

ポイントは、被相続人・相続人のどちらか一方でも、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していれば、原則として「無制限納税義務者」となり、海外にある財産も含めてすべて日本の相続税の課税対象になるということです。両者とも10年を超えて日本に住所がなければ「制限納税義務者」となり、国内財産のみが課税対象になります。海外移住によって相続税の課税範囲を縮小したい場合、この「10年」という期間が一つの目安になります。

国外転出時課税制度(出国税)とは

2015年に導入された制度で、1億円以上の有価証券等(上場・非上場株式、投資信託、未決済デリバティブ取引等)を保有する人が海外へ転出する際、その含み益に対して所得税が課税されます。実際に売却していなくても、出国時点で「売却したもの」とみなして課税する点が特徴です。海外移住後にキャピタルゲイン非課税国で売却する租税回避を防ぐ目的で設けられています。

対象となる要件

  • 国外転出時に対象資産を1億円以上保有していること
  • 転出前10年以内に、5年を超えて日本国内に居住していたこと

相続・贈与でも出国税が課される

この制度は、本人が海外に移住する場合だけでなく、次のケースにも適用されます。

  • 国外転出(相続)時課税:1億円以上の対象資産を持つ日本居住者が死亡し、海外居住の相続人がその資産を相続する場合、相続開始時点で被相続人が資産を売却したとみなし、被相続人の準確定申告で所得税が課税されます
  • 国外転出(贈与)時課税:1億円以上の対象資産を持つ日本居住者が、海外居住の親族に贈与する場合も同様に課税されます

判定基準は、海外の相続人・受贈者が実際に取得した資産額ではなく、被相続人・贈与者が保有していた対象資産全体が1億円以上かどうかである点に注意が必要です。相続の場合、準確定申告は相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に行います。

納税猶予と取消し制度

納税管理人の届出と担保提供を行えば、最大10年間の納税猶予を受けられます。さらに、国外転出から5年以内(猶予延長時は10年以内)に、対象資産を取得した相続人・受贈者全員が日本の居住者に戻れば、課税自体を取り消すことができます。

現金・不動産は出国税の対象外

出国税の対象は有価証券等に限られ、現金・預金・一般の不動産は直接の対象になりません。ただし、これらの資産も通常の相続税・贈与税の課税対象になる点は変わりません。

実務のポイント

海外移住や国際相続が絡む場合、相続税の納税義務者区分の判定と、出国税の適用有無の両方を確認する必要があります。特に有価証券等の資産規模が大きい場合は、移住・相続・贈与のタイミングによって数千万円単位の税負担差が生じることもあるため、実行の数ヶ月以上前から国際相続に詳しい税理士に相談し、準備を進めることをおすすめします。