遺言書を作成する際、「遺言執行者」を指定しておくかどうかで、その後の相続手続きの進めやすさが大きく変わります。特定のケースでは選任が法律上必須になることもあります。
遺言執行者とは
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為を行う権利義務を持つ人です(民法1012条)。相続人全員の同意を待たずに、単独で預貯金の解約・不動産の名義変更・遺贈の手続き等を進められる強い権限を持ちます。相続人は遺言執行者の職務を妨げることができず、これに反する行為は無効とされます。
選任が法律上必須になるケース
遺言執行者の選任は原則として任意ですが、次の2つの手続きは遺言執行者しか行えないため、遺言書にこれらの記載がある場合は選任が必須です。
- 遺言認知:婚姻関係にない男女の間に生まれた子(非嫡出子)を、遺言で「自分の子である」と認める場合。遺言執行者が就任日から10日以内に市区町村へ認知の届出を行う必要があります
- 相続人の廃除・廃除の取消し:遺言者に対する虐待や重大な侮辱などを理由に、特定の推定相続人の相続権を奪う(または取り消す)場合。遺言執行者が家庭裁判所への申立てを行います
一方、単なる遺贈や遺産分割方法の指定のみであれば、選任は任意です。ただし実務上は、こうした場合でも手続きの円滑化のために遺言執行者を指定するケースがほとんどです。
選任するメリット
- 相続人が多い場合や疎遠な場合でも、遺言執行者が単独で手続きを進められる
- 非嫡出子の認知など、相続人同士でトラブルになりやすい内容も遺言執行者が処理する
- 相続財産の使い込みなど、手続き中の不正リスクを抑えやすい
- 戸籍謄本の収集、財産目録の作成、預貯金の解約・不動産の名義変更などを一括して任せられる
誰が遺言執行者になれるか
未成年者と破産者以外であれば、特別な資格は不要で誰でもなれます。相続人自身(配偶者・子等)を指定することも法律上問題ありませんが、遺言内容が相続人間で不平等な場合、他の相続人との間でトラブルが生じやすいため、弁護士・司法書士・税理士等の第三者専門家や、信託銀行などの法人を指定するのが望ましいとされています。
選任方法:遺言書での指定と家庭裁判所への申立て
最も一般的な方法は、遺言者本人が遺言書に「遺言執行者として○○を指定する」と記載する方法です。適任者を決められない場合、その指定自体を第三者に委託することもできます。
遺言書に遺言執行者の指定がない、指定された人が就任を辞退した、あるいは死亡していたといった場合は、相続人・受遺者・債権者などの利害関係人が、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に選任を申し立てることができます。
遺言執行者の主な職務の流れ
- 就任の承諾、相続人全員への就任通知(遺言書の写しを添付)
- 被相続人の戸籍謄本を出生から死亡まで収集し、相続人を確定
- 相続財産(プラス・マイナス双方)を調査し、財産目録を作成・相続人へ交付
- 遺言内容の実行(預貯金の解約、不動産の名義変更、遺贈の履行等)
- 任務完了の通知を作成し、相続人へ送付
解任・辞任について
遺言執行者が職務を果たさない場合、相続人等は家庭裁判所に解任を申し立てることができます。遺言執行者側も、正当な理由があれば家庭裁判所への申立てにより辞任できます。
実務のポイント
相続人が多い、遺言内容が相続人間で不平等、非嫡出子の認知や相続人廃除の記載があるといった場合は、遺言執行者を指定しておくことで手続きの停滞やトラブルを防ぎやすくなります。遺言書を作成する際は、財産の分け方だけでなく、誰を遺言執行者にするかも合わせて検討し、専門家への依頼も視野に入れることをおすすめします。