相続税の申告書は、e-Taxで提出できます。ただし、所得税の確定申告と同じ感覚で「確定申告書等作成コーナー」を開いても、相続税の申告書は作成できません。相続税の申告書を作成できるのは、パソコンにインストールする「e-Taxソフト」と、民間の税務会計ソフトに限られます。本記事では、自分で電子申告する場合の手順と必要な準備、添付書類の扱い、e-Taxが使えないケース、税理士に代理送信を依頼する場合との違いを、国税庁・e-Taxの公表情報にもとづいて整理します。

相続税申告はe-Taxでできる——ただし作成ソフトが限られる

相続税の申告書は、平成31年(2019年)1月1日以後の相続等により財産を取得した人の申告から、e-Taxで提出できるようになりました(受付開始は令和元年10月1日)。修正申告書も同じ範囲でe-Taxの対象です。

注意したいのは、申告書を作成できるソフトが限られる点です。国税庁は、相続税の申告書は「e-Taxソフト」または民間の税務会計ソフトで作成・送信するよう案内しており、e-Taxソフト(WEB版)と「確定申告書等作成コーナー」では、相続税の申告書を作成することはできません。ここでいう「e-Taxソフト」は、Webブラウザ上で使うe-Taxソフト(WEB版)とは別の、パソコンにインストールして使うソフトです。

なお、民間の税務会計ソフトで作成した相続税の電子申告用データ(拡張子が「.xtx」のもの)については、e-Taxソフトとe-Taxソフト(WEB版)のいずれでも組み込み・署名・送信ができます。「作成はできないが、送信はできる」という関係になっている点に注意してください。

提出先の税務署は、書面で提出する場合と同じく被相続人の死亡の時における住所地を管轄する税務署です。相続人自身の住所地ではありません。申告期限も紙の申告と変わらず、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税申告の流れと期限)。

e-Taxでできること

  • 相続税の申告書・修正申告書の作成・送信(平成31年1月1日以後の相続等により財産を取得した人の申告から対象)
  • 戸籍謄本や遺産分割協議書等の添付書類を、イメージデータ(PDF形式)で送信
  • 「ダイレクト納付」など電子納税による相続税の納付
  • 受信通知による受付結果・提出内容の確認

国税庁の公表資料によれば、令和6年度における相続税申告のe-Tax利用率は50.3%で、前年度に比べ13.2ポイント上昇しました。国税庁は利用率の目標値を令和7年度63%、令和8年度72%に設定して利用拡大を進めており、より新しい令和8年7月公表の国税庁パンフレットでは「約7割がe-Taxで申告されています」と案内されています。税理士による代理送信を含め、電子申告はすでに主流になりつつあります。

自分で電子申告する場合に必要な準備

  • 利用者識別番号(16桁)——申告する人1名につき1つ必要です。「e-Taxの開始(変更等)届出書作成・提出コーナー」からオンラインで取得できるほか、書面の届出書を住所地の所轄税務署に提出して取得することもできます。所得税や贈与税の申告などで既に取得している場合は、その番号をそのまま使えます
  • 電子証明書——本人が送信する場合は電子署名が必要なため、マイナンバーカード等の電子証明書を用意します
  • ICカードリーダライタ——マイナンバーカードを読み取るために使用します(利用するソフト・コーナーによっては、読み取りに対応したスマートフォンで代替できる場合があります)
  • Windowsパソコンとe-Taxソフト——推奨環境はWindows 11で、Mac OSをご利用の方はe-Taxソフトを利用できません。ダウンロード後に、相続税の税目プログラムをインストールします
  • 自分で計算した税額——e-Taxソフトは利用者自身が計算した金額等を直接入力するソフトで、自動計算機能はありません(相続税申告書の書き方と各表の役割
  • PDF化した添付書類——戸籍謄本や遺産分割協議書などをスキャンしておきます(相続税申告の必要書類チェックリスト

個人で申告する場合の手順

  1. 電子証明書を取得する(マイナンバーカード等)
  2. 利用者識別番号(16桁)を取得する(開始届出書の提出。所得税申告等で既に取得済みならそのまま使用可)
  3. ルート証明書等をインストールし、e-Taxソフトをダウンロードしたうえで、相続税の税目プログラムをインストールする
  4. 第9表〜第15表で財産・債務を入力、第2表で相続税の総額、第4表〜第8表で税額控除、第1表で各人の納付税額を入力する(金額は自分で計算する)
  5. 添付書類をPDF化して組み込む
  6. 電子署名を付与して送信する
  7. メッセージボックスに格納される受信通知で、受付結果を確認する

添付書類はPDFで提出できる

戸籍の謄本などの法定添付書類のほか、提出をお願いされている書類についても、イメージデータ(PDF形式)で提出できます。国税庁は、イメージデータで提出した添付書類の原本の保存は必要ないとしています。

送信方法は、申告等データと同時に送る「同時送信方式」と、送信後に受信通知から送る「追加送信方式」の2つです。追加送信方式は受信通知の格納後1年間に限り、同一の受付番号に対して10回まで行えるため、両方式を併用すると合計11回まで送信できます。1送信あたりの上限は136ファイル・PDFファイル合計14.0メガバイトで、併用時は最大1,496ファイル・合計154.0メガバイトとなります。

e-Taxソフトが対応していない申告書(申告書第8の2表など)がある場合でも、その申告書をPDF形式のイメージデータとして他の添付書類と一緒に送信すれば、電子申告を行うことができます。ただし、申告書第1表の付表1「納税義務等の承継に係る明細書(兼相続人の代表者指定届出書)」はイメージデータ提出の対象外です。

令和7年4月からは、フルカラーだけでなくグレースケールで読み取ったPDFのイメージデータも提出できるようになりました。

e-Taxで提出できないケース

次のような場合は、e-Taxではなく書面で申告書を提出する必要があります。

  • 10人以上の財産取得者の申告を1度に送信する場合
  • 財産取得者が電子証明書を有していない場合(税理士等による代理送信を除く)
  • 申告義務者が提出期限前に死亡し、その相続人が代わりに提出する場合
  • 相続時精算課税適用者が被相続人より先に死亡している場合
  • 修正申告書の提出者が死亡し、その相続人が代わりに提出する場合

個人利用が難しいとされる理由

  • 相続税申告書の作成には「e-Taxソフト」または民間の税務会計ソフトが必要で、確定申告書等作成コーナーやe-Taxソフト(WEB版)では作成できません
  • e-Taxソフトの推奨環境はWindowsのみで、Mac OSでは利用できません
  • e-Taxソフトには自動計算機能がなく、税額は自分で計算した上で入力する必要があります
  • 相続人が複数いる場合、本人が送信するときは他の財産取得者の分をまとめて申告することはできず、財産取得者ごとに申告書を提出(送信)する必要があります

制度上は自分で電子申告できますが、財産評価や特例判定の難易度は紙の申告と変わりません(相続税申告は自分でできる?)。

税理士に依頼する場合との違い

税理士(税理士法人)が代理送信する場合は、税理士が電子署名を付与することで財産取得者本人の電子署名を省略でき、1回の送信につき最大9名分までの財産取得者の申告をまとめて行えます。相続人の一部がインターネット環境やパソコン操作、マイナンバーカードの取得に不慣れな場合でも、電子申告を完了できます。

ただし、代理送信であっても財産取得者本人の利用者識別番号の入力は必要です。国税庁は、申告書第1表または第1表(続)に利用者識別番号の入力がある財産取得者のデータを有効なものとして受け付けるとしており、利用者識別番号が入力されていない財産取得者については、申告書を提出したことになりません。税理士に依頼する際は、相続人ごとに過去にe-Taxを利用したことがあるかを確認し、取得済みの利用者識別番号を伝えておくことが重要です(相続税申告の税理士報酬の相場)。

e-Tax利用のメリット

  • 税務署の開庁時間(平日8時30分〜17時)に合わせて出向く必要がない。e-Taxの利用可能時間は、通常期であれば火曜日〜金曜日が24時間、月・土・日・休祝日が8時30分〜24時です(いずれもメンテナンス時間を除く)
  • マイナンバー制度に係る本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証等の写し)の添付を省略できます(マイナンバーの記載・入力自体は必要です)
  • ダイレクト納付など電子納税により、金融機関の窓口に行かずに納付できます
  • 提出書類がデータとして残り、受信通知から受付結果や提出内容を確認できます(メッセージボックス内の各メッセージを確認できる期間は、受信通知が格納されてから1,900日間・約5年間です)
  • 令和7年1月から、e-Taxの「マイページ」で、相続税申告書の作成に必要な過去の贈与税申告事績(e-Taxで提出した申告に限る)を確認できるようになりました

なお、令和8年分用から申告書の控用が廃止されるため、書面で提出する場合は自分で控えを作成・保管する必要があります。この点でも、データが手元に残る電子申告のほうが記録を管理しやすくなっています。

よくある質問

スマートフォンやWebブラウザだけで相続税の申告はできますか

申告書の作成はできません。相続税の申告書はe-Taxソフト(WEB版)や確定申告書等作成コーナーでは作成できず、Windowsパソコンにインストールする「e-Taxソフト」または民間の税務会計ソフトが必要です。ただし、民間ソフトで作成した「.xtx」データの送信はe-Taxソフト(WEB版)でも行えるほか、送信後の受付結果はe-Taxのメッセージボックスからスマートフォンでも確認できます。

利用者識別番号は相続人全員に必要ですか

はい。e-Taxの利用には、申告する人1名につき1つの利用者識別番号(16桁)が必要です。税理士が代理送信する場合も、財産取得者ごとに利用者識別番号の入力が必要で、入力がない人は申告書を提出したことになりません。

相続人の代表者がまとめて送信できますか

本人が送信する場合はできません。本人以外の財産取得者の申告をまとめて行うことはできないため、財産取得者ごとに申告書を提出(送信)します。税理士等が代理送信する場合に限り、1回の送信につき最大9名分までまとめて行えます。

添付書類の原本は保管しておく必要がありますか

イメージデータ(PDF形式)で提出した添付書類については、原本の保存は必要ないとされています。ただし、遺産分割協議書のように相続登記や金融機関の手続で使う書類は、実務上そのまま保管しておくのが安全です。

修正申告もe-Taxでできますか

相続税の修正申告書は、平成31年1月1日以後の相続等により財産を取得した人の申告からe-Taxで提出できます(申告後に財産が見つかったら――修正申告の手続き)。ただし、修正申告書の提出者が死亡し、その相続人が代わりに提出する場合は、e-Taxを利用できません。

e-Taxで申告すると納税も同時にできますか

相続税はダイレクト納付の対象税目です。事前に税務署へ届出をしておけば、電子申告等または納付情報登録を行った後、届け出た預貯金口座からの振替により、即時または期日を指定して納付できます。ただし利用にはあらかじめ「ダイレクト納付利用届出書」の提出が必要で、利用できる状態になるまでに一定の期間を要します。申告期限(10か月)から逆算して早めに手続きしておくと安全です。

実務のポイント

e-Taxはあくまで申告書の「提出手段」であり、財産評価や特例判定の難しさが変わるわけではありません。e-Taxソフトに自動計算機能がないことを踏まえると、相続人が1人で財産内容がシンプルな場合を除き、個人が自力でe-Taxによる相続税申告を完結させるのは難易度の高い作業です。相続人が複数いる場合や、不動産・非上場株式など評価が複雑な財産がある場合は、税理士に依頼して代理送信で進めるほうが、手続きの正確性・スピードの両面で安心です。

税理士に依頼する場合でも、財産取得者ごとの利用者識別番号が揃っていないと、その人については申告書を提出したことになりません。依頼の早い段階で、相続人それぞれの利用者識別番号の有無を確認しておくことをお勧めします。