近年は自宅ではなく老人ホームで最期を迎える方が増えています。小規模宅地等の特例は「亡くなる直前に住んでいたこと」が原則ですが、一定の要件を満たせば、老人ホーム入居後に空き家になった自宅にもこの特例を適用できます。
適用の基本要件
次のすべてを満たせば、老人ホーム入居直前まで住んでいた自宅の敷地は「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」として扱われます。
- ①被相続人が、相続開始の直前において要介護認定・要支援認定または障害支援区分の認定を受けていたこと
- ②老人福祉法等に規定する老人ホーム・高齢者向け住宅等に入居していたこと
- ③自宅を老人ホーム入居後に賃貸に出していないこと
- ④老人ホーム入居後、事業用または被相続人等(生計一親族等)以外の人の居住用に供していないこと
要介護認定等は、老人ホームに入居する時点ではなく、あくまで「相続開始の直前」に受けていればよいとされています。また、要介護認定の申請中に亡くなった場合でも、後日認定が下りれば、申請日にさかのぼって認定を受けていたとみなされます。
誰が相続するかで結果が変わる
状況 | 特例の適用 |
|---|---|
配偶者が引き続き自宅に居住していた場合、配偶者が相続 | 適用可(配偶者は無条件) |
夫婦で入居し空き家になった自宅を、配偶者が相続 | 適用可 |
同居していた親族が引き続き居住し、その親族が相続 | 適用可 |
空き家になった自宅を、別居の「家なき子」が相続 | 適用可(家なき子要件を満たす場合) |
入居後、生計別親族が新たに住み始めた場合 | 適用不可 |
自宅を賃貸に出した場合は評価減が小さくなる
老人ホーム入居後、空き家になった自宅を第三者に賃貸すると、「特定居住用宅地等」としての適用(330㎡まで80%減額)は受けられなくなりますが、「貸付事業用宅地等」として200㎡まで50%減額の適用を受けられる可能性があります。ただし、原則として相続開始前3年以上継続して貸し付けていることが条件になります。
生計別親族に有償で貸す場合も同様に貸付事業用宅地等の対象になり得ますが、相続によってその土地を取得する人と、入居した親族が同一人にならないよう注意が必要です(同一人になると民法上の「混同」により賃貸借関係が消滅してしまいます)。
二世帯住宅で老人ホームに入居した場合
二世帯住宅に住んでいた被相続人が老人ホームに入居した場合も、通常の二世帯住宅と同様のルールが適用されます。建物が区分所有登記されていなければ敷地全体に特例を適用できますが、区分所有登記されている場合は被相続人の居住部分に対応する敷地のみが対象になります。
必要な添付書類
通常の小規模宅地等の特例の申告書類に加え、次の書類が必要です。
- 被相続人の戸籍の附票の写し(死亡日以後に作成されたもの)
- 介護保険の被保険者証の写しなど、要介護認定等を受けていたことを証明する書類
- 施設の入所契約書の写しなど、老人ホームの名称・所在地が分かる書類
介護保険者証は被相続人の死亡後に自治体へ返還することが多いため、返還前に写しを取っておくことをおすすめします。
未届の施設に注意
入居していた施設が、老人福祉法等に基づき都道府県等へ届出をしている正規の老人ホーム・高齢者向け住宅でない場合(いわゆる未届施設)は、この特例の対象になりません。入居先を選ぶ際や、既に入居している場合は、施設が届出済みかどうかを確認しておくことが重要です。
実務のポイント
老人ホーム入居後の自宅は、要介護認定の有無、施設の届出状況、入居後の自宅の利用状況(賃貸の有無、新たな居住者の有無)という複数の要素が絡み合い、判断が複雑になりがちです。評価額に数千万円単位の差が生じることもあるため、老人ホームへの入居を検討する段階から、将来の相続税への影響も含めて税理士に相談しておくことをおすすめします。