◆ 30秒でわかる要約
- 親が一人暮らしをしていた実家を相続し売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例がある(税額から3,000万円を引く制度ではありません)
- 期限は、①相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日と、②現行法上の制度期限である2027年12月31日の、いずれか早い日までです
- 建物を売る場合は昭和56年5月31日以前建築の家屋(区分所有建物・分譲マンション等は対象外)であること、かつ特例で定める一定の耐震基準に適合していることが必要(耐震基準適合証明書等で確認。2024年以降は買主側の対応でも可)
- 対象の家屋・敷地を相続または遺贈により取得した人が3人以上いる場合、2024年1月1日以後の譲渡では控除額が1人あたり2,000万円に縮小される
まず確認したいこと(簡易チェック)
- 昭和56年5月31日以前の建築か
- 区分所有建物(分譲マンション等)でないか
- 相続後に居住・賃貸・事業利用していないか
- 売却総額が1億円以下か(他の取得相続人の売却分と合算)
- ①相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日、②2027年12月31日のいずれも過ぎていないか
1. どんな制度か
親が一人で住んでいた実家を相続し、誰も住まず・貸さずに売却した場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、被相続人が住んでいた家屋やその敷地を一定要件のもとで売却したときに適用される制度です。空き家の増加対策として2016年に創設され、現在は令和9年(2027年)12月31日までの譲渡が対象期間となっています。
前回のコラムで扱った「概算取得費5%」の問題を思い出してください。取得費がほぼ無い状態で売却すると、仲介手数料などの譲渡費用を差し引いてもなお、譲渡所得の大部分が課税対象として残ります。この特例は、その譲渡所得そのものから3,000万円を丸ごと差し引けるため、取得費加算の特例と並んで相続不動産売却の税負担を左右する最重要の特例です。
なお、この特例は取得費加算の特例(相続税を取得費に加算する特例、VOL.1参照)と同一の譲渡については併用できません。どちらが有利かはケースにより異なるため、売却前に両方の特例で試算しておくことをお勧めします。
空き家3,000万円控除と取得費加算の特例の比較(同一資産では併用不可・選択適用)
項目 | 空き家3,000万円特別控除 | 取得費加算の特例 |
|---|---|---|
仕組み | 譲渡所得から最高3,000万円を控除 | 納めた相続税のうち一定額を取得費に加算 |
前提 | 相続税の納税は不要(納税がなくても使える) | 相続または遺贈で取得し、その財産を取得した人に相続税が課税されていること |
期限 | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ2027年12月31日まで | 相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡 |
対象資産 | 被相続人の居住用家屋・敷地(要件多数) | 相続税の課税対象となった資産全般 |
※この2つの特例は同一の譲渡について併用できません。どちらが有利かは事前の試算で確認してください。
空き家3,000万円特別控除の主な適用要件
項目 | 要件の概要 |
|---|---|
対象の家屋 | 昭和56年5月31日以前に建築され、区分所有建物(分譲マンション等)でなく、相続開始直前に被相続人以外に居住者がいなかったこと |
相続後の利用 | 相続時から売却時まで、事業・貸付け・居住の用に供していないこと |
建物の状態 | 耐震基準に適合させて売却するか、取壊して売却する(2024年以後の譲渡は、買主が譲渡翌年2月15日までに耐震改修・取壊しを行う場合も可) |
譲渡期限 | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ2027年12月31日まで |
譲渡価額 | 合計1億円以下(他の取得相続人の売却分と合算して判定) |
売却の相手方 | 配偶者・直系血族など特別の関係がある人への売却は対象外 |
控除額 | 最高3,000万円(対象家屋・敷地の取得者が3人以上の場合は1人2,000万円) |
手続 | 確定申告が必須。市区町村の「被相続人居住用家屋等確認書」等の添付が必要 |
2. 実務のポイント
(1) 期限管理が最大の落とし穴
要件の中で実務上最も見落とされやすいのが期限です。相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却しないと、この特例は一切使えません。空き家の管理や売却先の選定に時間がかかっているうちに期限を過ぎてしまうケースが実際に多く発生しています。相続が発生した時点で、この期限を家族に伝えておくことが重要です。
譲渡期限のタイムライン(例: 2025年6月10日に相続開始の場合)
時点 | 内容 |
|---|---|
2025年6月10日 | 相続開始(被相続人の死亡) |
2028年6月10日 | 相続開始から3年を経過する日 |
2028年12月31日 | 「3年を経過する日の属する年の12月31日」…本来の売却期限 |
2027年12月31日 | ただし制度全体の適用期限がこの日までのため、実際の期限は2027年12月31日(2つの期限の早い方) |
このように、「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」と「制度の適用期限である2027年12月31日まで」の両方を満たす必要があります。相続の時期によっては、手元の残り時間が想像より短いことがあります(制度の適用期限は過去に延長された経緯がありますが、延長は保証されていません)。
(2) 相続開始の直前に被相続人以外の居住者がいないことが原則(老人ホーム入所には例外あり)
この特例は、相続開始の直前において、被相続人以外に居住していた人がいなかった家屋が対象です(原則)。同居人がいた場合は原則適用できません。老人ホーム等への入所例外では、要介護・要支援認定等と対象施設への入所に加え、入所等により被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続開始の直前まで、その家屋が引き続き被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと(事業・貸付け・被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと)などが必要です。「親は施設に入っていたから対象外」と思い込まず、まず要件を確認することをお勧めします。
(3) 昭和56年5月31日以前建築であることが制度の対象要件(更地でも取壊し後の利用制限に注意)
この特例の対象となる家屋は、昭和56年5月31日以前に建築されたものに限られます(昭和56年6月1日以後に建築された家屋は、原則としてこの特例の対象外です)。建物付きのまま売却する場合は、特例で定める一定の耐震基準に適合させる耐震改修(耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書等で確認)を行うか、取り壊して更地にする必要があります。なお、区分所有建物(分譲マンション等)はこの特例の対象外です。ただし、更地にした場合でも、相続時から譲渡時までの間、事業の用・貸付けの用(月極駐車場としての貸付けなど)・居住の用に供していないこと、また取り壊し後は敷地を別の構築物の敷地として利用していないことが要件となります。「更地にすれば要件を満たす」わけではなく、相続後の利用状況にも注意が必要です。2024年1月1日以降の譲渡からは、譲渡の日から譲渡した年の翌年2月15日までの間に、買主側が耐震改修工事または取り壊しを完了させれば、工事が譲渡後であっても適用対象に含まれるよう改正されました。売主が事前に取り壊す必要がなくなった点は朗報ですが、期限内に買主が確実に工事を完了できるとは限らないため、工事完了を証する書類の授受方法や、期限内に完了しなかった場合の負担・責任の所在を契約条項に明記しておくことが重要です。
耐震改修・取壊しはいつまでに?(2024年1月1日以後の譲渡)
パターン | 工事の期限・注意点 |
|---|---|
売主が譲渡前に耐震改修 | 譲渡の時までに耐震基準に適合させて引き渡す |
売主が譲渡前に取壊し(更地渡し) | 譲渡の時までに取壊しを完了。取壊しから譲渡までの間に敷地を事業・貸付け等に使わないこと |
買主が譲渡後に耐震改修または取壊し | 譲渡の翌年2月15日までに耐震基準適合または取壊しが完了していることが必要。契約書に工事完了期限・証明書類の授受を明記しておく |
(4) 相続人の数で控除額が変わる
2024年1月1日以降の譲渡について、対象の家屋・敷地を相続または遺贈により取得した相続人等が3人以上いる場合、特別控除額は1人あたり2,000万円に縮小されます。取得した人数が2人以下であれば、引き続き1人あたり3,000万円が適用されます。共有で相続した実家を売る場合、誰が何人で相続したかによって手取り額が変わるため、遺産分割の段階でこの点も考慮しておくと良いでしょう。
対象家屋・敷地の取得者数と控除限度額(2024年1月1日以後の譲渡)
対象不動産を相続・遺贈で取得した人の数 | 控除限度額(1人あたり) | 取得者全員での最大合計 |
|---|---|---|
1人 | 3,000万円 | 3,000万円 |
2人 | 3,000万円 | 6,000万円 |
3人以上 | 2,000万円 | 2,000万円×人数 |
人数のカウントは「相続人の数」ではなく、特例対象の家屋・敷地を相続または遺贈により取得した人の数で判定します(相続人が4人いても、実家を取得したのが2人なら1人3,000万円です)。遺産分割で誰が実家を取得するかによって控除総額が変わるため、分割協議の段階で試算しておく価値があります。
(5) 売却代金1億円以下、身内への売却は対象外
譲渡価額が1億円を超える場合は特例の対象外です。分割して売却しても、合計額で1億円を超えれば適用されません。なお、1億円の判定は、共同相続人が複数回・複数人で売却した場合でも、それらの合計額で行われます。特例適用後に他の相続人が追加で売却し、合計額が1億円を超えることが判明した場合は、その追加売却があった日から4か月以内に修正申告が必要になる点にも注意が必要です。また、親子や夫婦など特別な関係にある人への売却も対象外となるため、身内間での不動産のやり取りを検討している場合は注意が必要です。
家財(残置物)の処分費用が譲渡費用に該当するかどうかは一律に決まるものではなく、売買契約上の引渡条件として残置物の撤去が必要とされているか、その処分が現実に譲渡を実現するために直接必要な支出であったかによって個別に判断されます(取壊し費用とは扱いが異なります)。契約書、見積書、請求書、撤去前後の写真等の資料を保存し、譲渡費用該当性を客観的に説明できるようにしておいてください。
相続により不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。遺産分割成立後にも、その成立日から3年以内の追加的義務があります。2024年4月1日前の相続で未登記の場合は、原則として2027年3月31日までです。買主への所有権移転登記を行うには、前提となる相続登記を完了させる必要があります。売却スケジュールには登記・残置物処分の期間も織り込んでおきましょう。
(6) 確定申告と「被相続人居住用家屋等確認書」
この特例の適用を受けるには確定申告が必須です。申告の際は、譲渡した家屋の所在市区町村から交付を受ける「被相続人居住用家屋等確認書」など、要件を満たすことを証明する書類の添付が必要になります。この確認書の取得には一定の日数がかかることが多いため、売却スケジュールが決まった時点で早めに市区町村へ申請しておくことをお勧めします。
※本記事は2026年7月22日現在の法令・公表資料に基づきます。制度延長・改正の有無は売却時点で再確認してください。