◆ 30秒でわかる要約
- 非上場株式の相続税・贈与税を猶予する事業承継税制は、「資産管理会社」に該当すると原則使えない
- 賃貸不動産を多く持つ不動産会社は、資産保有型会社(特定資産70%以上)や資産運用型会社(運用収入75%以上)に該当しやすい
- ただし「事業実態3要件」(従業員5人以上・事務所等の保有・3年以上の事業継続)をすべて満たせば除外対象から外れ、猶予を受けられる
- 猶予開始後に資産管理会社に該当すると、原則として納税猶予が打ち切られる
1. なぜ不動産賃貸業が狙い撃ちされるのか
VOL.13で扱った資産管理会社(法人成りした不動産オーナーの会社)は、事業承継の場面で別の論点にぶつかります。それが、非上場株式の相続税・贈与税を猶予する「事業承継税制」の対象から資産管理会社が除外されるという規定です。
事業承継税制はもともと、実際に事業を営む中小企業の後継者負担を軽減するための制度です。単に不動産や有価証券を保有・運用しているだけの会社まで優遇すると制度趣旨から外れるため、一定の「資産管理会社」はあらかじめ対象から除かれています。
2. 実務のポイント
(1) 「資産保有型会社」と「資産運用型会社」の2種類の判定
資産管理会社は、資産保有型会社(有価証券・自ら使用していない不動産・現預金などの「特定資産」が総資産の70%以上)と資産運用型会社(これら特定資産からの運用収入が総収入金額の75%以上)の総称です。賃貸不動産は「自ら使用していない不動産」に該当するため、賃貸収入を主な収益源とする不動産会社は、どちらか一方、または両方の基準に抵触しやすい構造になっています。
(2) 「事業実態3要件」を満たせば除外対象から外れる
形式的に資産管理会社の基準に該当しても、次の3つの要件をすべて満たしていれば「事業実態がある」とされ、事業承継税制の対象から除外されません。
- 常時使用する従業員が5人以上いること(後継者や生計を一にする親族は原則カウント不可、社会保険加入の有無が判定基準)
- 従業員が勤務する事務所・店舗等を所有または賃借していること
- 3年以上継続して事業を行っていること
不動産賃貸業でも、管理会社としてしっかり従業員を雇用し、事務所を構えて長年営んでいれば、この要件を満たして事業承継税制の適用余地が生まれます。「不動産賃貸業だから絶対に使えない」わけではありません。
(3) 従業員5人の壁——後継者と生計を一にする親族はカウントされない
従業員5人以上の要件を満たす際、後継者本人やその親族で生計を一にする人は原則としてこの人数に含められません。家族経営の小規模な不動産管理会社では、実質的に外部の従業員を5人以上雇用する必要があり、この人員体制の構築が実務上のハードルになりがちです。事業承継を見据えるなら、早い段階から従業員体制を整えておく必要があります。
(4) 猶予開始後に該当すると「打ち切り」——一時的な例外もある
事業承継税制の適用を受けて納税猶予中の会社が、その後何らかの事情で資産管理会社に該当することとなった場合、原則として納税猶予は打ち切られ、猶予されていた税額と利子税を一括で納付することになります。ただし2019年度改正により、事業活動上やむを得ない事情で一時的に該当しても、該当日から6か月以内に資産管理会社に該当しなくなれば打ち切りを免れる緩和措置が設けられています。不動産の売却や大口テナントの退去などで一時的に資産・収入構成が変動する可能性がある会社は、この6か月ルールを念頭に置いた対応が必要です。
(5) 特例措置の計画提出期限は延長されている
事業承継税制の特例措置(納税猶予割合100%など、一般措置より有利な制度)を利用するための特例承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正により2027年9月30日まで延長される見込みです。制度自体の適用期限(2027年12月31日)は延長されない見通しのため、不動産管理会社を含め、この制度の活用を検討している場合は、早めに計画の策定に着手する必要があります。