◆ 30秒でわかる要約
- 個人の不動産所得は累進課税で最高約55%まで税率が上がるが、法人税は資本金1億円以下の中小法人で最高でも約34%程度にとどまる
- 一般に課税所得(不動産所得)が900万円前後を超えると法人化のメリットが出始め、1,200万円を超える水準が続くなら検討に値するとされる
- 法人化により家族への役員報酬による所得分散や経費計上の幅拡大が可能になる一方、維持コストや事務負担も増える
- 個人所有の不動産を法人に移す際は、時価との乖離が問題になりやすい(VOL.3参照)
1. なぜ「法人化」で税負担が変わるのか
個人の不動産所得(家賃収入から経費を差し引いた儲け)には所得税が課税され、所得税は累進課税のため所得が増えるほど税率が上がり、住民税と合わせると最高で約55%に達します。一方、資本金1億円以下の中小法人であれば、法人税・法人住民税・法人事業税を合わせた実効税率は所得800万円以下の部分で概ね21〜24%程度、それを超える部分でも34%程度にとどまり、それ以上税率が上がることはありません。
この税率構造の違いが、不動産オーナーが「資産管理会社」を設立して不動産を法人名義に移す動機になっています。
2. 実務のポイント
(1) 「課税所得900万円」が実務上の一つの目安
課税所得が900万円を超えると所得税率が法人税率を上回り始めるため、この水準が法人化を検討する一つの目安とされています。ただし法人には設立コストや維持コストが発生するため、この目安を一時的に超えるだけでなく、1,200万円を超える水準が継続する見込みがあるかどうかで判断するのが実務的です。確定申告書の所得金額欄を確認すれば、自分がこの水準にあるかどうかをすぐに把握できます。
(2) 家族への役員報酬で所得を分散できる
資産管理会社を設立すると、配偶者や子を役員・従業員として迎え、役員報酬や給与を支払うことができます。オーナー1人に集中していた所得を家族に分散することで、世帯全体の税負担を抑える効果が期待できます。ただし、実際に業務に従事していない家族への過大な役員報酬は税務署から否認されるリスクがあるため、勤務実態と報酬額のバランスには注意が必要です。
(3) 経費計上の幅が広がる一方、公私混同は許されない
個人事業主が計上できる経費は収入を得るために直接要した費用に限られますが、法人であれば福利厚生費や健康診断費用など、業務に間接的に関連する経費も計上できる幅が広がります。ただし、会社の資産や現金をオーナーが個人的な趣味・交遊費に使うことは認められません。不動産を私的に利用する場合も、一定の対価を会社に支払う必要があります。「自分の会社だから自由に使える」という誤解が税務調査で最も指摘されやすいポイントです。
(4) 相続税対策としての効果もある
個人で不動産を持ち続けると、家賃収入が個人の財産としてどんどん蓄積され、それに比例して将来の相続税評価額も膨らみます。資産管理会社を通じて家族に所得を分散しておけば、オーナー個人の財産の膨張を抑えられ、結果として相続税の負担軽減につながります。また非上場株式(資産管理会社の株式)は、含み益に対する法人税相当額を控除して評価できるため、不動産をそのまま個人所有するより評価額が下がる場合もあります。
(5) 個人から法人への不動産移転コストを事前に試算する
既に個人で所有している不動産を後から法人に移す場合、売却・贈与のいずれの方法でも、不動産取得税・登録免許税といった移転コストに加え、時価との乖離が問題になる譲渡所得課税のリスクが生じます(VOL.3で扱った適正時価の論点と同じ構造です)。含み益の大きい土地は特に譲渡所得税の負担が重くなりやすいため、建物のみを移転する、新規物件から法人名義で取得するなど、移転コストを抑える設計を事前に検討する必要があります。