◆ 30秒でわかる要約
- 社長個人が所有する土地・建物を自分の会社に売る場合、価格は当事者間で決められる反面、「時価」から外れると税務調査で価格の算定根拠や取引条件の合理性の確認を受けるリスクがある
- 売却価格が時価の2分の1未満だと、実際の売買価格ではなく時価そのもので譲渡所得が計算される(同族会社への売却では2分の1以上でも時価で計算される場合がある)
- 逆に社長など役員から時価より高く買うと、差額は役員への経済的利益(給与)として課税関係を検討する必要があり、会社側では損金算入要件を満たさない部分は損金にできない
- 金額が大きい・建物と土地を分離する等の複雑な案件では、不動産鑑定評価書による裏付けが有効
1. なぜ社長個人と会社の取引は「特別扱い」されるのか
第三者間の売買であれば、価格は需要と供給で自然に決まります。しかし、社長個人と会社は別の法主体ですが、社長が取引条件を左右できるため、独立した第三者間の取引と同様の価格形成が行われたことを客観的に説明できるようにする必要があります。また、対象の会社が株式会社であり、社長がその取締役である場合、自己所有不動産の会社への売却は会社法上の利益相反取引(会社法356条1項2号)に当たり得ます。取締役会を設置していない会社では株主総会の承認、取締役会設置会社では取締役会の承認をあらかじめ得る必要があり、取締役会設置会社ではさらに、取引後遅滞なくその取引についての重要な事実を取締役会へ報告しなければなりません(会社法365条1項・2項)。承認機関、議決に加われるか、議事録の作成方法は会社の機関設計と具体的事情に応じて確認します。
安すぎれば会社への利益供与、高すぎれば個人への利益供与——どちらに転んでも思わぬ課税につながります。まず、両方向のリスクを押さえておく必要があります。
2. 実務のポイント
(1) 時価の2分の1未満で売ると「時価」で課税される
個人が不動産を法人へ時価の2分の1未満で売ると、所得税法59条により、原則として時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算します。例えば時価1億円の土地を4,000万円で売っても、譲渡所得の計算は1億円受け取ったものとして行われます。「安く売れば税金も少なくて済む」という発想は、この規定によって成り立ちません。ただし、2分の1は安全圏を示す基準ではありません。同族会社への売却では、価格が時価の2分の1以上でも、所得税法157条により時価で所得を計算される場合があります。時価から乖離させる合理的な事情があるときは、その根拠を契約前に文書化してください。
(2) 個人側と法人側、両方に課税リスクがある
時価より著しく低い価額で売却すると、個人側では上記のみなし譲渡課税に加え、会社側では、原則として取得した不動産の時価と支払対価との差額が受贈益として益金に算入され得ます。また、その低額譲渡によって同族会社の株価が上昇し、財産提供者以外の個人株主が利益を受けたと認められる場合には、その個人株主に相続税法9条による贈与税が課される可能性があります。株主構成、株価への影響、各株主の利益額を個別に確認してください。1つの取引で複数の課税リスクが生じ得るという点は、経営者自身も見落としがちです。
(3) 逆に高く売りすぎても問題になる
節税を意図して不動産を時価より高い価格で会社に売却した場合、会社が社長である役員から不動産を時価より高く買い入れたことになり、原則として時価との差額は役員への経済的利益(給与)として課税関係を検討します。会社側では、その差額について役員給与の損金算入要件や過大役員給与等の規定を確認する必要があり、固定資産の取得価額にも当然に算入できるとは限りません。売主が役員でないなど前提が異なる場合は、所得区分を個別に判定します。「高く売れば売るほど得」という単純な話ではありません。
(4) 「時価」はどう算定するか
ここでいう時価は、原則として譲渡時点に通常の取引で成立すると認められる価額です。近隣の取引事例、収益性、再調達原価、立地・形状・権利関係などを踏まえて検討します。固定資産税評価額や相続税評価額は参考指標にはなりますが、評価目的と水準が異なるため、そのまま売買時価とはできません。重要性が高い取引では、価格時点と評価条件を明示した不動産鑑定評価を取得し、他の資料とともに価格決定過程を保存します。鑑定評価書に加え、近隣取引事例、収益資料、売買条件の検討メモ、利益相反取引の承認議事録、契約書、代金決済資料を一体で保存すると、後日の税務調査で価格の妥当性を説明しやすくなります。
(5) 建物だけ法人へ、土地は個人のまま——借地権の認定に注意
自社ビルの建物のみを会社へ売却し、土地は社長個人が所有し続けるという手法も、資産管理や相続対策の一環として利用されます。ただしこの場合、法人が個人所有の土地を無償や著しく低い地代で使っていると「借地権」の認定課税を受けるおそれがあります。対策としては、①税務上の「相当の地代」を収受する方法、または②契約書に将来土地を無償返還する旨を定め、土地所有者と法人が連名で「土地の無償返還に関する届出書」を遅滞なく提出する方法が実務でよく使われます。ただし、地主・借地人が個人か法人かの組み合わせ(個人地主×法人借地人、法人地主×法人借地人等)により、所得税・法人税・相続税評価上の取扱いは異なります。実際の地代が相当の地代に満たない場合の課税関係や相続税評価への影響は、契約当事者の組み合わせに応じて個別に確認してください。事前の手当てをしないまま進めると、後から想定外の課税を招くため注意が必要です。なお、土地と建物では消費税の取扱いが異なります。売主個人が課税事業者に当たるか、建物が事業用資産か、土地・建物の価格配分に合理性があるかも契約前に確認してください。