◆ 30秒でわかる要約
- 社長個人が所有する土地・建物を自分の会社に売る場合、価格は自由に決められる反面、「時価」から外れると税務署に狙われやすい
- 売却価格が時価の2分の1未満だと、実際の売買価格ではなく時価そのもので譲渡所得が計算される
- 逆に時価より高く売ると、差額は役員給与・一時所得とみなされ、会社側は損金にできない
- 金額が大きい・建物と土地を分離する等の複雑な案件では、不動産鑑定評価書による裏付けが有効
1. なぜ社長個人と会社の取引は「特別扱い」されるのか
第三者間の売買であれば、価格は需要と供給で自然に決まります。しかし、社長個人と自分が経営する会社との取引は、売主と買主が実質的に同一人物とみなされ、市場原理が働きません。だからこそ税務署は、価格が恣意的に決められていないかを厳しく確認します。
安すぎれば会社への利益供与、高すぎれば個人への利益供与——どちらに転んでも思わぬ課税につながります。まず、両方向のリスクを押さえておく必要があります。
2. 実務のポイント
(1) 時価の2分の1未満で売ると「時価」で課税される
個人が法人に不動産を売る場合、売却価格が時価の2分の1を下回ると、実際の売却価格ではなく時価そのものを収入金額として譲渡所得税が計算されます。例えば時価1億円の土地を4,000万円で売っても、譲渡所得の計算は1億円受け取ったものとして行われます。「安く売れば税金も少なくて済む」という発想は、この規定によって成り立ちません。
(2) 個人側と法人側、両方に課税リスクがある
時価より著しく低い価額で売却すると、個人側では上記のみなし譲渡課税に加え、会社側にも受贈益として法人税が課されます。さらに、その低額譲渡によって会社の株式価値が上がった場合は、既存株主が価値上昇分を贈与により取得したものとして贈与税の対象になることもあります。1つの取引で三重の課税リスクが生じ得るという点は、経営者自身も見落としがちです。
(3) 逆に高く売りすぎても問題になる
節税を意図して不動産を時価より高い価格で会社に売却した場合、差額分は会社から社長個人への経済的利益の供与とみなされます。個人側では役員給与または一時所得として課税され、会社側ではその金額を損金にできない(寄付金扱いなど)可能性があります。「高く売れば売るほど得」という単純な話ではありません。
(4) 「時価」はどう算定するか
不動産の時価算定にはいくつかの方法があり、どれか1つが絶対的な正解というわけではありません。実務では、固定資産税評価額や相続税評価額、収益還元法・原価法による評価額などを複数算定し、比較検討したうえで合理的な価格を決めるのが一般的です。金額が大きい案件や、建物と土地を分離して評価する必要がある案件では、不動産鑑定士による鑑定評価書を取得しておくと、後日の税務調査で価格の妥当性を説明しやすくなります。
(5) 建物だけ法人へ、土地は個人のまま——借地権の認定に注意
自社ビルの建物のみを会社へ売却し、土地は社長個人が所有し続けるという手法も、資産管理や相続対策の一環として利用されます。ただしこの場合、法人が個人所有の土地を無償や著しく低い地代で使っていると「借地権」の認定課税を受けるおそれがあります。対策としては、「土地の無償返還に関する届出書」を提出する、あるいは適正な地代を収受するという2つの方法が実務でよく使われます。事前の手当てをしないまま進めると、後から想定外の課税を招くため注意が必要です。