◆ 30秒でわかる要約

  • 親から相続した土地を売る際、購入価格の記録がないと売却額の5%相当額を概算取得費として計算することになる(実額の記録が見つかれば実額を使うことも可能)
  • 結果として売却額のほぼ全額に、長期譲渡所得の場合で約20.315%の譲渡所得税がかかることになり(短期譲渡所得の場合は原則39.63%)、税負担が想定以上に重くなる
  • 売買契約書がなくても、通帳の履歴・住宅ローンの契約書・不動産業者のパンフレットなどから実額取得費を合理的に推定できる場合がある
  • 相続税を払っている場合は「取得費加算の特例」で二重の税負担を軽減できる可能性がある

1. なぜ「売却額の9割に課税」ということが起きるのか

不動産を売却した際の税金(譲渡所得税)は、次の式で計算します。

譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)

ここで問題になるのが「取得費」です。土地の取得費は、被相続人(亡くなった方)が実際に購入した金額を引き継ぎます。相続した時点の評価額ではありません。ところが、先祖代々の土地や数十年前に購入した不動産では、売買契約書や領収書がすでに失われているケースが非常に多くあります。

取得費が証明できない場合、国税庁の通達により売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」を使うことになります。例えば3,000万円で土地が売れた場合、取得費が不明であれば概算取得費はその5%にあたる150万円です。つまり、3,000万円で売れた土地でも、取得費として引けるのはわずか150万円。ここから仲介手数料・印紙税・測量費・建物の取壊し費用などの譲渡費用をさらに差し引けるとはいえ、大部分が課税対象として残ってしまうのです。

2. 実務のポイント

(1) 「実額」と「概算5%」は必ず両方確認する

実際の取得費が売却額の5%を下回っていたとしても、概算取得費の5%を使うことができます。つまり実額取得費と概算取得費(5%)を比較し、有利な方を選べるという点は見落とされがちです。まずはどちらが得かを機械的に計算することが第一歩です。

(2) 契約書がなくても、間接資料から実額を推定できることがある

売買契約書そのものが無くても、次のような資料から購入金額を合理的に推定できる場合があります。

  • 住宅ローンの金銭消費貸借契約書・返済予定表(借入額から購入額を逆算)
  • 通帳の入出金履歴(振込先・金額の記録)
  • 購入当時の不動産業者のパンフレットやチラシ
  • 国税庁の「建物の標準的な建築価額表」や「市街地価格指数」を用いた推計

ただし、これらの資料は単独では取得費の立証として十分でないことが多く、推計方法が認められるかどうかは提出資料の組み合わせや個別の事情によって判断が分かれます。特にローン契約書や市街地価格指数からの逆算は、あくまで補助的な資料と位置づけ、税務署に必ず認められるとは限らない点を前提に、早い段階で専門家に相談し証拠固めをしておくことが重要です。なお、相続登記にかかった登録免許税や司法書士報酬などは、非業務用の不動産であれば取得費に算入できる場合があります。ただし、概算取得費(5%)を使う場合は、これらを重ねて加算することはできない点に注意が必要です。

(3) 相続税を払っていれば「取得費加算の特例」が使える

相続や遺贈により財産を取得し、その財産に相続税が課税されている場合、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(目安として相続開始から約3年10か月以内)に売却すると、納めた相続税の一部を取得費に上乗せできる特例(取得費加算の特例)があります。取得費が数百万円〜数千万円単位で増えることもあり、譲渡所得税の負担を大きく圧縮できます。ただし、同一の譲渡について空き家の3,000万円特別控除(被相続人の居住用財産を売ったときの特例)とこの取得費加算の特例は併用できず、どちらか一方を選択適用することになります。譲渡所得の金額や納めた相続税額によってどちらが有利かは変わるため、売却前に両方の特例で試算し、有利な方を選ぶことが重要です。

(4) 「先祖伝来の土地だから仕方ない」で諦めない

概算取得費はあくまで「実額が分からない場合の代替手段」であり、資料が見つかれば実額取得費に切り替えることで納税額を大きく減らせる可能性があります。売却を検討する前に、まず被相続人名義の古い通帳や契約書一式を確認しておくことをお勧めします。