◆ 30秒でわかる要約
- 10年超所有の事業用不動産を売って買い換えると、譲渡益の原則80%について課税を繰り延べできる
- 「非課税」ではなく「繰延べ」。買換資産の取得価額が圧縮され、将来売却時に大きな譲渡益が発生する
- 適用期限は令和8年度改正で令和11年(2029年)3月31日まで3年延長される見込み
- 同一年中に売買する場合、届出書の提出期限は3か月区切りの期間の末日翌日から2か月以内と短く、うっかり失念しやすい
1. 老朽化した賃貸物件、売って終わりにしていませんか
古くなった賃貸アパートや使い勝手の悪い土地を売却し、より収益性の高い物件に買い換えたいというニーズは、不動産オーナーの間で非常に多く見られます。しかし単純に売却するだけでは、長期譲渡所得に対して約20.315%の税金がかかり、手元に残る資金が目減りしてしまいます。
この負担を大きく軽減できるのが「事業用資産の買換え特例」です。10年を超えて所有していた事業用の土地・建物を売却し、一定期間内に新たな事業用資産に買い換えて事業の用に供した場合、譲渡益の一部について課税を将来へ繰り延べることができます。
2. 実務のポイント
(1) 「繰延べ」であって「免除」ではない
この特例の最重要ポイントは、課税が消えるわけではないということです。買換資産の取得価額は、実際の購入価格ではなく譲渡資産から引き継いだ取得価額とされるため、将来その買換資産を売却したときに大きな譲渡益が計上されます。減価償却費も引き継いだ低い取得価額をもとに計算されるため、毎年の減価償却費も目減りします。短期的な資金繰りには極めて有効ですが、税負担そのものを将来に先送りしているだけである点を、実行前に正確に理解しておく必要があります。
(2) 繰延割合は地域移転の方向で変わる
最も利用頻度が高いのは、国内の10年超所有の事業用資産を国内の土地・建物等に買い換える組み合わせ(いわゆる9号買換え)で、繰延割合は原則80%です。ただし、東京23区から地方への本店・主たる事務所の移転を伴う買換えは繰延割合が90%に拡大される一方、地方から東京23区への移転を伴う買換えは60%に縮減されるなど、移転の方向によって割合が変動します。単純に「80%」と思い込まず、自社の移転パターンに応じた割合を確認する必要があります。
(3) 買換資産が土地の場合は「300㎡以上」「5倍以内」の制限
買換資産が土地等である場合、事務所等の敷地として使用され、かつ面積が300㎡以上であることが要件です。また買換資産の面積は、譲渡した土地等の面積の5倍以内に制限されます。5倍を超える部分についてはその超過部分だけ特例の対象外となり、全体が否認されるわけではありませんが、想定より繰延べ効果が薄まる点に注意が必要です。
(4) 同一年中の売買は届出期限が非常に短い
令和6年4月以降、譲渡と取得を同一年中に行う場合は、譲渡または取得のいずれか早い日を含む「3月期間」の末日の翌日から2か月以内に「特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出書」を提出することが義務化されました。3月期間とは1〜3月、4〜6月、7〜9月、10〜12月の4区分を指し、期限は数か月単位ではなく実質数週間〜2か月程度しかありません。取引が同一年にまたがる場合は、契約段階からこの届出スケジュールを織り込んでおく必要があります。翌年に取得する場合は届出は不要ですが、その場合は確定申告に買換資産の明細書を添付する必要があります。
(5) 適用期限は2029年3月まで延長見込み
この特例の適用期限は、令和8年度税制改正でこれまでの令和8年(2026年)3月31日から、3年間延長され令和11年(2029年)3月31日までとなる見込みです。ただし対象資産や区域、繰延割合など要件の一部見直しも予定されているため、延長後の詳細要件は都度最新情報を確認する必要があります。