◆ 30秒でわかる要約
- 相続不動産を売って分ける「換価分割」は、遺産分割協議書への記載の仕方を誤ると贈与税が課される危険がある
- 代表相続人1人の名義にして売却する場合でも、協議書に「換価分割である旨」と分配割合を明記すれば贈与とはみなされない
- 換価分割では相続人全員に譲渡所得税の申告義務が生じるが、代償分割では不動産を取得した1人にのみ生じる
- 共有名義のまま相続すること自体は、実務上最も避けられる分割方法——将来の管理・売却で必ず全員の同意が必要になるため
1. 実家1つを兄弟で分ける、4つの方法
相続財産が自宅不動産のように分けにくい財産の場合、分割方法は主に4つあります。不動産をそのままの形で分ける「現物分割」、1人が取得して他の相続人に現金(代償金)を支払う「代償分割」、売却して現金を分ける「換価分割」、そして持分割合で共同所有する「共有分割」です。家庭裁判所の調停・審判でも、この順番で優先的に検討されるとされています。
実務では、公平性と資金負担のバランスから換価分割と代償分割が選ばれることが多く、共有分割は将来のトラブルの種になりやすいため実務上は避けられる傾向にあります。
2. 実務のポイント
(1) 換価分割は「協議書の書き方」が全て
換価分割では、便宜上、代表相続人1人の名義に相続登記してから売却することがよくあります。しかしこの場合、税務署から見れば「代表相続人が相続財産を取得し、その売却代金を他の相続人に贈与した」ように見えてしまいます。これを避けるには、遺産分割協議書に「換価分割である旨」と「売却代金の分配割合」を明記し、あくまで遺産分割の一環であることを対外的に説明できるようにしておく必要があります。この記載を忘れると、思わぬ贈与税が課される可能性があります。
(2) 換価分割は「全員」、代償分割は「取得者のみ」に譲渡所得税
換価分割では相続人全員(または代表相続人)が売主となるため、譲渡所得税の申告義務は各相続人に生じます。一方、代償分割で不動産を取得した相続人がその後に売却した場合は、譲渡所得税の納税義務はその取得した相続人のみに生じます。代償金を受け取った他の相続人には譲渡所得税はかかりません。この違いは、空き家の3,000万円特別控除など各種特例の適用単位にも影響するため、分割方法を決める段階で試算しておくべきポイントです。
(3) 代償金の支払い自体には課税されない
代償分割において、不動産を取得した相続人が他の相続人に現金で代償金を支払う行為自体は、譲渡には該当せず課税されません。ただし、代償金の代わりに他の資産(不動産や株式など)を交付した場合は、その資産の時価に対して譲渡所得税が課される可能性があります。「現金の代わりに別の不動産を渡す」といった代物弁済的な処理をする場合は、事前に課税関係を確認しておく必要があります。
(4) 空き家の3,000万円特別控除は分割方法で有利不利が変わる
以前のコラムで取り上げた空き家の3,000万円特別控除は、2024年以降、相続人が3人以上の場合は1人あたり2,000万円に縮小されます。換価分割で複数の相続人がそれぞれこの特例を適用する場合と、代償分割で1人だけが不動産を取得しその1人だけが特例を使う場合とでは、最終的な税負担が変わってきます。分割方法を決める際は、この特例の縮小ルールも踏まえた試算が欠かせません。
(5) 共有名義のまま相続すると「次の相続」で問題が複雑化する
共有分割は一見公平に見えますが、共有者の1人が単独で不動産全体を売却・活用することはできず、常に他の共有者全員の同意が必要になります。さらに共有者の1人が亡くなれば、その持分がまた次の相続人に分割相続され、共有者の数がねずみ算式に増えていくリスクもあります。「今すぐ揉めたくないから共有にしておく」という判断が、将来より大きな問題を生む典型パターンであることは、実家を相続する家族に事前に伝えておくべき視点です。