◆ 30秒でわかる要約

  • 従来、区分所有マンションの相続税評価額は、国税庁の検討資料などで市場価格の3〜4割程度まで下がる事例が示されており、高層階ほど圧縮効果が大きい傾向があった
  • 2022年の最高裁判決をきっかけに、2024年1月1日以後の相続、遺贈または贈与から評価方法が改正され、統計的な評価水準が0.6未満の場合に評価水準0.6まで補正される(個別物件の実際の市場価格に対して必ず60%以上になることを保証するものではない)
  • 補正の対象は「タワマン」に限らず、3階建て以上の区分所有マンション全般(一部除外あり)
  • 評価額の圧縮効果は縮小したが、ゼロになったわけではなく、なお一定の圧縮余地は残っている

1. なぜ「マンション節税」が成立していたのか

マンションの相続税評価額は、建物部分を固定資産税評価額、土地部分(敷地利用権)を路線価などで計算した敷地全体の価額に、登記上の敷地権割合(または敷地の共有持分割合)を乗じて計算します。戸数で単純に等分するわけではありませんが、戸数の多いタワーマンションほど1戸あたりの敷地持分が小さくなる傾向があり、評価額が低く出やすい構造でした。加えて高層階ほど市場価値は上がるものの、この評価方法には階数の違いがほとんど反映されません。

結果として、時価と相続税評価額が大きく乖離するマンションが多数存在し、現金をマンションに換えるだけで相続税評価額を大幅に圧縮できる手法として広く使われてきました。しかし2022年4月、多額の借入をして購入した投資用マンションの評価が国税庁によって否認され、約3億円の追徴課税となった最高裁判決が、この状況を大きく変えるきっかけになりました。

2. 実務のポイント

(1) 2024年1月から導入された「区分所有補正率」の仕組み

令和6年(2024年)1月1日以後に相続、遺贈または贈与で取得した居住用の区分所有財産については、築年数・総階数・所在階・敷地持分狭小度の4指標から算出する「評価乖離率」を用いて「評価水準」を求め、評価額を補正する新ルールが導入されました。評価水準が0.6未満の場合は、従来評価額×評価乖離率×0.6で補正します。この0.6は統計モデル上の評価水準であり、個別物件の実際の市場価格に対して評価額が必ず60%以上になることを保証するものではありません。評価水準が0.6以上1以下の場合は補正せず、1を超える場合は評価乖離率を乗じて評価額を引き下げます。

(2) 対象は「タワマン」だけではない

この改正の対象は、いわゆるタワーマンションに限られません。地階を除く総階数が3以上で区分所有登記されている居住用マンションであれば、原則として適用対象になります。ただし、区分所有登記がされていない一棟所有の賃貸マンション、事業用のテナントや事務所、地階を除く総階数が2以下の低層集合住宅、二世帯住宅のように一棟内の居住用専有部分一室の数が3以下ですべてを区分所有者またはその親族の居住用に供しているケースなどは対象外です。「うちはタワマンじゃないから関係ない」という思い込みは禁物です。

(3) それでも評価圧縮効果はゼロにはなっていない

改正後も、評価額を市場価格の6割まで引き上げるにとどまるため、一般的な戸建て不動産の評価水準(市場価格の6〜7割程度)に近づいただけで、不動産を保有すること自体の評価圧縮効果は依然として存在します。加えて、賃貸に出せば貸家建付地の評価減も別途適用されるため、マンション自体の評価水準が引き上げられた後も、賃貸活用による評価減との組み合わせは選択肢として残ります。

(4) 一棟マンションや不動産小口化商品も見直し方針(通達は未公表)

2024年の改正は区分所有マンションが対象でしたが、令和8年度(2026年度)税制改正大綱では、①被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した一定の貸付用不動産(一棟所有の賃貸マンション等)と、②一定の不動産特定共同事業契約・信託受益権型商品の目的となる貸付用不動産、を分けて見直す方針が示されています。②は大綱上、取得時期を問いません。いずれも2027年1月1日以後の相続等による取得財産への適用方針ですが、本記事公開時点(2026年7月23日)で具体的な財産評価基本通達は公表されておらず、対象・計算方法は今後の通達で確認する必要があります。区分所有マンションで塞がれた抜け道を、一棟所有や小口化商品に切り替えて再現しようとする動きへの対応として検討が進められている段階です。

(5) 「通達に従っていれば絶対安全」でもない

2022年の最高裁判決は、財産評価基本通達に形式的に従っていても、実勢価格との乖離が著しく租税負担の公平に反する「特段の事情」があると認められる場合には、通達によらない評価(総則6項)が許容されることを示しました。この判決では、単に市場価格と通達評価額が乖離したことだけでなく、多額の借入れ・購入により課税価格が大幅に圧縮され通達評価では相続税がゼロとなることや、相続税負担の軽減を期待して取引を実行したことなどが総合的に考慮されました。新しい評価方法(区分所有補正率)の導入後も、この総則6項による個別否認の可能性が完全になくなったわけではありません。相続開始直前の借入による多額の不動産購入など、租税回避の意図が強く疑われる取引は、引き続き慎重な検討が必要です。