◆ 30秒でわかる要約
- 農業を営む相続人が農地を相続し、農業を継続する場合、評価額のうち「農業投資価格」を超える部分に対応する相続税の納税が猶予される
- この制度は「免除」ではなく「猶予」——農業をやめれば猶予税額と利子税をまとめて納付することになる
- 三大都市圏の特定市にある一般農地は原則対象外だが、生産緑地の指定を受けた農地は納税猶予の対象になる
- 生産緑地の営農継続要件は、2018年の改正で三大都市圏の特定市以外も「終身」に変更されている
1. なぜ「農地」だけ特別な扱いなのか
農地は宅地に比べて相続税評価額が高くなりやすい一方、農業自体の収益性は必ずしも高くありません。評価額どおりに相続税を課すと、農業を続けたい相続人が納税資金を工面するために農地を手放さざるを得なくなり、日本の食糧生産基盤が失われかねません。この問題に対応するために設けられたのが、農地の相続税納税猶予制度です。
農業を営んでいた被相続人から農地を相続し、相続人が引き続き農業を営む場合、評価額のうち「農業投資価格」(農地として恒久的に利用されると仮定した場合の価格、10aあたり20万〜90万円程度)を超える部分に対応する相続税が猶予されます。
2. 実務のポイント
(1) 「猶予」であって「免除」ではない
この特例の最重要ポイントは、あくまで納税が先送りされているだけという点です。相続人が農業をやめたり、農地を譲渡・転用したりすると、猶予されていた相続税額に加えて利子税まで一括で納付しなければなりません。「猶予=免除」と誤解して途中でリタイアを考えていると、想定外の高額納税に直面するリスクがあります。免除されるのは、農業相続人が死亡した場合や、一定期間の営農継続を満たした場合など、決められた事由に該当したときだけです。
(2) 三大都市圏の特定市では「一般農地」は対象外
三大都市圏(東京圏・近畿圏・中部圏)の特定市にある市街化区域内の農地(特定市街化区域農地等)は、1991年の改正により相続税の納税猶予制度の対象から外れています。都市部の農地は宅地化を促進する政策方針のもと、宅地並みの評価・課税がされるためです。ただし例外として、生産緑地の指定を受けた農地は引き続き納税猶予の対象となります。「都市部だから農地の納税猶予は使えない」と決めつけず、生産緑地の指定を受けているかどうかをまず確認する必要があります。
(3) 生産緑地の営農継続要件は「終身」に統一された
2018年度の税制改正前は、市街化区域内の農地(都市営農農地等を除く)の営農継続要件は20年間とされ、20年間営農を続ければ猶予税額が免除される仕組みでした。改正により、三大都市圏の特定市以外の区域内にある生産緑地地区内の農地についても、営農継続要件が終身に変更されています。「20年頑張れば免除になる」という以前の情報のまま止まっていると、実際の要件と食い違ってしまう可能性があります。
(4) 自ら耕作しなくても「特定貸付け」なら猶予は継続する
制度創設時は農業相続人が自ら耕作する場合のみが対象でしたが、現在は農地中間管理事業を通じた「特定貸付け」や、生産緑地における「認定都市農地貸付け」「市民農園向けの貸付け」を行った場合も、納税猶予の対象に含まれるよう改正されています。高齢や後継者不在で自作が難しい場合でも、貸付けという選択肢を検討することで納税猶予を継続できる余地があります。
(5) 「相続人であること」が絶対条件
この特例の適用を受けられるのは、被相続人の相続人である場合に限られます。相続人でない人や相続を放棄した人は、たとえ農業を継承する意思があっても適用を受けられません。誰が農地を承継するかを決める段階で、相続人であるかどうかを最初に確認しておく必要があります。