◆ 30秒でわかる要約
- 社長個人の土地に会社が建物を建てる場合、権利金も相当の地代も払わないと「借地権の贈与があった」とみなされ課税される(認定課税)
- 認定課税を避ける代表的な対応は2つ:①相当の地代(更地価額の年6%目安)を払うか、②「土地の無償返還に関する届出書」を提出する(通常の権利金を授受する場合や取引慣行がない地域・利用形態では別の判定)
- 無償返還の届出をしても地代の設定額は別途検討が必要(「固定資産税の2〜3倍なら常に足りる」という法令上の一律基準はない)。地代が完全に無償だと小規模宅地等の特例が使えなくなる(有償にすれば自動的に使えるわけでもない)
- 届出は貸主か借主のどちらかが法人である場合にのみ提出できる。個人同士では使えない
1. なぜ「タダで貸すだけ」では済まないのか
自社ビルの土地は社長個人の名義のまま、建物だけを会社名義にする——資産管理や相続対策のためによく使われる形です。しかしこの場合、会社(借主)は社長個人(貸主)の土地の上に建物を建てて使用することになり、税務上は借地権が発生したとみなされます。
借地権は本来、権利金を支払って取得するものです。権利金も、それに代わる高額な地代(相当の地代)も支払わずに土地を借りていると、税務署からは「借主が貸主から借地権相当額の利益をタダでもらった」と見なされ、法人であれば受贈益として法人税が、個人であれば贈与税が課されます。これが権利金の認定課税(借地権の認定課税)です。この場合、税務上の届出だけでなく、賃貸借・使用貸借・建物所有目的の借地関係を契約書で整備する必要がある点にも注意してください。
2. 実務のポイント
(1) 認定課税を避ける代表的な対応は2つ
権利金を支払わない場合、認定課税を避ける代表的な対応は次の2つです。1つ目は、「相当の地代」を支払う方法です。相当の地代の目安は土地の更地価額のおおむね年6%とされ、権利金を払わない代わりに地代でその分を賄う考え方です。ただし更地価額5,000万円の土地であれば年間300万円(月25万円)の水準となり、通常の賃料相場よりかなり高額になります。加えて、この地代はおおむね3年以下の期間ごとに見直しが必要です。
2つ目は、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する方法です。将来、借主が土地を無償で貸主に返還することを契約書に明記し、届け出ることで、税務上は借地権が発生していないものとして扱われ、権利金の認定課税は行われません。なお、通常収受すべき権利金を実際に授受する場合や、権利金を授受する慣行がない地域・利用形態では判定が異なります。契約前に個別の確認が必要です。
(2) 無償返還届出が使えるのは「法人が絡む場合」だけ
土地の無償返還に関する届出書は、貸主か借主のどちらか一方が法人である場合にのみ提出できます。個人同士の土地の貸し借りでは、この届出の仕組みは存在しません。個人間で権利金や相当の地代の授受なく土地を貸し借りする場合は、使用貸借か賃貸借かによって扱いが分かれ、賃貸借であれば借地権の贈与とみなされる可能性がある点に注意が必要です。社長個人と自分の会社という組み合わせは、まさにこの届出が使える典型パターンです。届出は土地所有者と借地人等の連名で、契約に無償返還を定めた後、遅滞なく提出する必要があり、契約書の写しと土地の価額の計算明細等の添付が求められます。
(3) 「届出さえ出せば地代はゼロでいい」わけではない
無償返還届出を提出する場合でも、地代をいくらに設定するかは別途検討が必要です。「固定資産税の2〜3倍なら常に足りる」という法令上の一律基準はありません。契約当事者、利用目的、地域の賃料水準、法人税・所得税・相続税、小規模宅地等の特例への影響を踏まえて設定してください。ただし、地代が完全にゼロ(無償)の場合、賃貸借契約ではなく使用貸借契約とみなされ、貸主に相続が発生した際に「貸宅地」としての評価減が受けられず、小規模宅地等の特例の対象からも外れてしまいます。なお、無償返還届出がある場合、借地権価額はゼロとして扱われる一方、個人が同族会社へ賃貸している土地の相続税評価は、国税庁通達(直資2-58)8「無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の評価」により自用地価額の80%相当額となります。これは通常の借地権割合をそのまま控除する一般的な貸宅地評価とは異なる取扱いです。さらに、土地所有者がその同族会社の同族関係者である場合は、昭和43年10月28日付通達「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(直資3-22)により、自用地価額から控除した20%相当額(借地権に相当する金額)を、その同族会社の株式評価(純資産価額の計算)上、会社の資産として算入することとされています。株主構成や評価対象株式の種類によって影響は異なるため、個別の確認が必要です。また、有償の賃貸借にすれば自動的に小規模宅地等の特例を使えるわけではありません。会社の議決権保有関係、会社の事業内容、相続人の役員就任、土地の保有継続等により、特定同族会社事業用宅地等(400㎡・80%)または貸付事業用宅地等(200㎡・50%)の要件を個別に確認する必要があります。
(4) 届出書の契約種類は実態に一致させる
届出書には「借地権の設定等」と「使用貸借契約」のどちらかを選択する欄があり、契約書と実際の地代授受に一致する区分を選択します。使用貸借の実態であるのに「借地権の設定等」を選ぶことはできません。賃貸借として設計し、貸主の相続発生時に貸宅地としての評価減を受けたい場合は、届出欄だけでなく、地代、契約期間、更新・返還条件、会計処理および実際の支払を賃貸借の実態に一体で整備してください。
(5) 届出は私法上の契約関係を当然に確定させるものではない
土地の無償返還に関する届出は、税務上の取扱いを定める手続であり、私法上の契約関係を当然に確定させるものではありません。借地借家法の適用、更新・終了、建物収去、立退料の要否は、賃貸借か使用貸借か、契約条項および具体的事情により異なります。契約書や届出書に「無償で返還する」と記載していても法的な結論が一律に決まるわけではないため、契約時に弁護士へ確認してください。