◆ 30秒でわかる要約
- 定期借地権付き住宅は普通借地権とは別枠のルールで評価され、「借地権割合」を単純に掛けるだけでは計算できない
- 評価額は借地権者に帰属する経済的利益と、残存期間の両方を反映した複雑な算式で決まる
- 契約時に保証金を払っている場合と前払地代を払っている場合とで、相続財産としての扱いが異なる
- 財産評価基本通達27-2ただし書の算式(本記事では便宜上「簡便法」と表記)を用いて評価するケースがあり、税理士の実務経験が評価額に直結する
1. 「普通借地権」とは別ルールで評価される
定期借地権付き住宅を相続した場合は、借地人が所有する建物と定期借地権を別々に評価します。保証金返還請求権等がある場合は、これも契約内容を確認します。定期借地権付きの分譲住宅は、契約期間が満了すれば更地にして地主に返還する仕組みで、その分、通常の借地権付き物件より購入価格が安く抑えられる傾向にあります。相続税評価の場面では、この定期借地権が普通借地権とは別枠(定期借地権等)として扱われ、路線価の借地権割合をそのまま掛けるだけでは評価できません。
評価の考え方は、契約時に借地権者が得た経済的利益と、相続開始時点で残っている契約期間の長さの両方を反映させるというものです。
2. 実務のポイント
(1) 財産評価基本通達27-2ただし書の算式(いわゆる「簡便法」)による評価
財産評価基本通達には原則的な評価方法が定められていますが、課税上弊害がない場合には、同通達27-2ただし書の算式によって評価することができます。実務では国税庁の評価明細書を用いて計算するケースがあります(以下、本記事では便宜上、この27-2ただし書の算式による評価方法を「簡便法」といいます。正式な制度名ではない点にご留意ください)。簡便法では、契約時に借地権者が得た経済的利益の総額を、設定時の宅地の取引価額と契約期間・残存期間の複利年金現価率で按分して評価額を算出します。この算式は専門的な計算を要するため、契約時の資料一式(契約書、権利金や保証金の額、地代の設定内容)を保管しておくことが評価の前提条件になります。
(2) 「保証金」と「前払地代」で扱いが変わる
定期借地権の設定時に授受される金銭には、大きく分けて保証金(契約終了時に返還される)と前払地代(返還されない)があります。返還される保証金等が無利息または低利で預託されている場合は、地主が保証金を長期間利用できることによって生じる経済的利益を計算し、定期借地権の評価に反映します。これとは別に、借地人が有する保証金返還請求権や地主側の返還債務について、契約内容に応じた確認が必要です。前払地代は定期借地権の設定時に借地権者へ帰属する経済的利益に含めて評価します。相続時における前払地代の未経過分は、定期借地権の評価額に反映されるため、原則として別の相続財産として重ねて計上しません。契約時にどちらの方式で金銭のやり取りをしたかによって、相続財産としての計上の仕方がまったく異なる点は、契約書を確認しないと判断できません。保証金、預託金、前払地代などの名称だけで税務上の取扱いは決まりません。返還の有無、返還時期、利息、償却条項、地代への充当の有無を契約書で確認する必要があります。
(3) 残存期間が短くなるほど評価額は下がる
定期借地権の評価額は、残存期間に応じた複利年金現価率を用いて計算されるため、契約期間の満了が近づくほど評価額は低くなっていきます。例えば50年の契約で20年が経過した時点(残存30年)での相続と、40年が経過した時点(残存10年)での相続とでは、同じ物件でも評価額が大きく異なります。相続のタイミングを選べるわけではありませんが、残存期間が短いほど定期借地権の評価額は低くなる傾向にあります。ただし、実際の相続税額は、他の相続財産・債務・基礎控除等を含めた全体の計算で決まるため、この評価額の傾向だけで相続税額の大小を一律に語ることはできません。
(4) 地主側(底地(注: 借地権が設定されている宅地を、地主側から見た呼び方))の評価も併せて発生する
定期借地権を設定している地主側が亡くなった場合には、その土地(底地)も相続税評価の対象になります。地主側の宅地は、原則として自用地価額から定期借地権等の価額を控除して評価します。ただし、その金額が、残存期間に応じた次の割合を用いて計算した所定の金額を上回る場合は、後者の金額を評価額とします。
残存期間 | 割合 |
|---|---|
5年以下 | 5% |
5年超10年以下 | 10% |
10年超15年以下 | 15% |
15年超 | 20% |
なお、これは定期借地権等の一般的な評価の枠組みであり、後述する一般定期借地権の専用評価とは別の取扱いです。借地人・地主のどちらの立場で相続が発生するかによって、確認すべき論点が変わります。
(5) 一般定期借地権には別の取扱いが定められている
契約期間50年以上とする「一般定期借地権」については、財産評価基本通達の原則ルールとは別に、平成10年の国税庁通達に基づく専用の評価ルールが「当分の間」適用されています。この一般定期借地権の専用評価では、路線価図等に表示される普通借地権の借地権割合はそのまま用いず、国税局長が定める底地割合と、残存期間に応じた複利年金現価率を用いて計算します。事業用定期借地権等や建物譲渡特約付借地権とは異なる取扱いとなるため、自分の契約がどの種類の定期借地権に該当するかをまず特定する必要があります。借地人が地主の親族や同族法人などの特殊関係者である場合や、税負担回避目的の設定と認められる場合は、一般定期借地権の専用算式を利用できないことがあります。
(6) 相続税評価だけでなく、契約と登記も確認
定期借地権を相続した場合は、評価額の計算だけでなく、借地契約上の地位の承継、賃借権の登記(または対抗要件)、地主への通知、地代の支払い状況、譲渡・転貸に関する条項、契約終了時の建物取壊し義務なども確認しておく必要があります。契約終了時の建物取壊し費用をあらかじめ見積もっておくと、将来の資金計画に役立ちます。相続税の債務控除の対象となるかどうかは、相続開始時点で取壊し義務が確実な債務と認められるかによって個別に判断されます。