「毎年110万円ずつ贈与すれば無税」というのは正しい知識ですが、やり方を誤ると「名義預金」や「定期贈与」とみなされ、想定外の課税を受けることがあります。せっかくの生前贈与を無駄にしないためのポイントを整理します。

定期贈与とは何か

定期贈与とは、「総額1,000万円を10年間かけて贈与する」というように、あらかじめ決まった総額の贈与を分割して渡すことです。この場合、契約をした最初の年に、1,000万円の「定期金給付契約に関する権利」を贈与したものとして扱われ、各年の110万円の基礎控除は適用されず、初年度に総額へまとめて贈与税が課税されます。

一方、「毎年その都度、贈与するかどうかを決めて100万円を渡した結果、それが10年続いた」という場合(連年贈与)は、各年ごとに独立した贈与として扱われ、年110万円以下であれば贈与税はかかりません。この2つを分ける最大のポイントは、「最初から総額を渡す意図・取り決めがあったかどうか」です。

定期贈与と疑われやすいパターン

  • 毎年、同じ時期に同じ金額を贈与している
  • 贈与契約書を作成していない
  • 現金を手渡しで渡しており、記録が残っていない

ただし、毎年の金額や時期を変えていても、それだけで定期贈与を否定できるわけではありません。税務署が定期贈与だと指摘するには、「総額を決めていた」ことを示す根拠(契約書や念書等)が本来必要とされており、そうした証拠がない限り、単に「毎年贈与した結果」として扱われるのが基本です。とはいえ、実務上の安全策として、金額や時期を毎年変えることが広く推奨されています。

定期贈与とみなされないための実務対応

  • 贈与のたびに契約書を作成する:「毎年110万円を10年間贈与する」という一括の契約書ではなく、贈与を行う都度、その年ごとの契約書を作成します
  • 金額・時期を変える:1年目は3月に100万円、2年目は9月に105万円というように変化をつけます
  • 銀行振込を利用する:手渡しではなく振込にすることで、日付・金額の客観的な記録が残ります

名義預金とみなされないための注意点

子や孫名義の口座に入金しても、その口座の存在を本人が知らず、通帳・印鑑・キャッシュカードを贈与者が管理し続けている場合、「贈与の実態がない」として、税務署から名義預金と判定されるリスクがあります。名義預金と判定されると、贈与はなかったものとして扱われ、その預金は贈与者の相続財産として相続税の課税対象になります。

  • 受贈者本人が口座の存在と入金を把握していること
  • 通帳・印鑑・キャッシュカードは受贈者自身が管理すること
  • 受贈者が普段使っている口座に振り込むこと(新規に作った使われない口座は要注意)

110万円を超える贈与をあえて行う方法

110万円をわずかに超える贈与(例えば120万円)を行い、少額の贈与税を申告・納税することで、「贈与の事実」をより明確に残すという方法も実務では用いられます。ただし、贈与税の申告さえしていれば安心というわけではなく、実態として財産の管理支配が受贈者に移っていなければ、贈与そのものが否認される可能性がある点は変わりません。

生前贈与加算にも注意

正しく贈与が成立していても、相続開始前一定期間内(2026年時点は3年以内、段階的に7年以内へ延長中)の贈与は相続財産に持ち戻されます。早めに長期間にわたって贈与を続けるほど、持ち戻しの対象になる範囲が相対的に小さくなるため、生前対策は早期に着手するほど有利になります。

実務のポイント

生前贈与は「贈与契約の成立」と「財産の管理支配の移転」という2つの実態が伴って初めて有効になります。形式だけを整えても実態が伴っていなければ、相続税の税務調査で否認されるリスクが残ります。長期にわたる贈与計画は、契約書の作成方法や振込記録の残し方も含めて、事前に税理士に相談しながら進めることをおすすめします。