相続の方法には「単純承認」「相続放棄」に加えて、あまり知られていない「限定承認」という第3の選択肢があります。財産の全体像がはっきりしない場合に有効な制度ですが、手続きの手間から利用件数は限定承認770件程度と、相続放棄の18万件超に比べて極めて少ないのが実情です。

3つの相続方法の違い

方法

プラス財産

マイナス財産(借金等)

単純承認

すべて相続

すべて相続

限定承認

相続

プラス財産の範囲内でのみ弁済

相続放棄

相続しない

相続しない

例えば、預金1,000万円、借金5,000万円という状況で限定承認をすると、1,000万円の預金を相続する代わりに、返済する借金も1,000万円までで済み、残り4,000万円の返済義務は負いません。借金が実際にはいくらあるか分からない場合でも、上限がプラスの財産までとなる安心感があります。

限定承認が有効なケース

  • 被相続人と疎遠で、プラス・マイナスどちらの財産が多いか分からない場合
  • 被相続人が裁判や係争を抱えたまま亡くなり、負債の確定額が不明な場合
  • 債務超過の可能性はあるが、自宅や家業の資産などどうしても手放したくない財産がある場合

特に自宅を手放したくない場合、限定承認では「先買権」を使い、家庭裁判所が選任した鑑定人による評価額を相続人が支払うことで、その財産を優先的に取得できます。相続放棄の場合、自宅を含めすべての財産を手放すことになるため、この点は限定承認ならではのメリットです。

最大のデメリット:相続人全員の合意が必要

限定承認は、相続人が複数いる場合、共同相続人全員が共同で申述しなければなりません。1人でも反対する相続人や連絡が取れない相続人がいると、限定承認を選択することはできません(この場合、反対者は単純承認か相続放棄を選ぶことになります)。相続人同士の関係が良好でないと利用しにくい制度です。

見落とされがちな税務上のデメリット:みなし譲渡所得税

限定承認をすると、税務上は被相続人が相続開始時点の時価ですべての財産を相続人に譲渡したものとみなされます。不動産や株式に含み益(取得時より値上がりしている部分)がある場合、その値上がり分に譲渡所得税が課税されます(この税金は被相続人の準確定申告として、相続人が申告・納税します)。単純承認や相続放棄ではこの課税は生じないため、限定承認特有の負担です。

手続きの流れ

  1. 相続人全員の合意を得る
  2. 熟慮期間(原則3ヶ月)内に、財産目録を添えて家庭裁判所に申述
  3. 家庭裁判所での審理・受理
  4. 相続人(複数の場合は相続財産管理人)による官報公告・債権者への催告
  5. 財産の換価(競売または鑑定人による評価・先買権の行使)
  6. 債権者への弁済、残余財産があれば相続人間で分割

このように手続きは多段階にわたり、予納金や鑑定費用といった実費もかかるため、単純承認・相続放棄に比べて時間と費用の負担が大きくなります。

実務のポイント

限定承認は制度としての利点は大きいものの、相続人全員の合意形成、財産目録の作成、みなし譲渡所得税の申告など、実務上のハードルが高い制度です。「借金の有無がはっきりしないが、自宅だけは残したい」といった具体的な事情がある場合に検討する価値があり、利用を考える際は早い段階で弁護士・税理士へ相談することをおすすめします。