「全財産を長男に相続させる」といった遺言があっても、配偶者・子・直系尊属には、最低限の取り分である「遺留分」が法律上保障されています。この遺留分が侵害された場合に金銭で取り戻す手続きが「遺留分侵害額請求」です。期限が短いため、早めの対応が欠かせません。
遺留分の割合
遺留分権利者は配偶者・子(またはその代襲相続人)・直系尊属に限られ、兄弟姉妹には遺留分がありません。全体の遺留分(総体的遺留分)は、相続人が直系尊属のみの場合は遺産の1/3、それ以外の場合は1/2です。これに各自の法定相続分をかけたものが、個別の遺留分割合になります。
計算例
法定相続人が長男・長女の2人(各法定相続分1/2)で、遺言により「長男に5,000万円(全財産)を相続させる」とされていた場合、長女の個別遺留分割合は1/2×1/2=1/4です。遺産総額5,000万円に対する長女の遺留分額は1,250万円となり、長女は長男に対して1,250万円の遺留分侵害額請求ができます。
請求できる期限(時効・除斥期間)
期間 | 内容 |
|---|---|
1年(消滅時効) | 「相続の開始」と「遺留分を侵害する贈与・遺贈があったこと」の両方を知った時から1年 |
10年(除斥期間) | 侵害の事実を知らなくても、相続開始から10年で権利が消滅 |
1年の時効はかなり短いため、遺言の内容を知って自分の遺留分が侵害されていると分かった時点で、速やかに動く必要があります。
時効を止める方法:内容証明郵便による意思表示
1年の時効が迫っている場合、相手方に対して遺留分侵害額を請求する意思表示を行うことで時効の完成を止められます。この意思表示は口頭でも有効ですが、後日の紛争に備え、配達証明付きの内容証明郵便で行うのが一般的です。意思表示によって時効の完成が6ヶ月間猶予され、その間に話し合いや調停・訴訟によって解決を進めます。
請求後に発生する金銭支払請求権にも別途時効(原則5年)があるため、請求した後も放置せず、解決に向けて動き続けることが重要です。
手続きの流れ
- 遺言・生前贈与の内容を確認し、侵害額を試算する
- 内容証明郵便で相手方に請求の意思表示を行う
- 当事者間の話し合いで解決を試みる
- 合意できなければ家庭裁判所に調停を申し立てる
- 調停でも解決しなければ地方裁判所での訴訟に移行する
2019年の法改正で「金銭請求」に一本化
2019年7月の民法改正前は「遺留分減殺請求」と呼ばれ、不動産や自社株そのものを取り戻す(共有化する)方式でした。改正後は「遺留分侵害額請求」として金銭の支払いを求める方式に一本化され、不動産や自社株が共有状態になって事業承継や売却が困難になる問題が解消されています。
相続税申告との関係
遺留分侵害額の請求が未解決のまま相続税の申告期限(10ヶ月)を迎える場合、いったんは遺言や当初の遺産分割の内容どおりに申告します。その後、金額が確定した段階で、財産を多く取得していた人は「更正の請求」により還付を受け、遺留分を取得した人は「修正申告」で追加納付を行います。
実務のポイント
遺留分侵害額請求は1年という短い時効があるため、遺言の内容に納得がいかない場合は、早めに専門家に相談して侵害額を試算し、必要であれば速やかに内容証明郵便で意思表示をすることが重要です。相続税の申告・納税とも密接に関わるため、弁護士と税理士が連携して対応するのが望ましい進め方です。