◆ 30秒でわかる要約

  • デッドクロスとは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態のこと
  • 元金返済は経費にならず、減価償却費は経費になるという性質の違いが原因で、帳簿上の黒字だけが増えていく
  • 木造アパート(耐用年数22年)など減価償却期間の短い物件ほど早く発生する
  • 物件購入時のローン設計と耐用年数のバランス次第で、発生時期をある程度コントロールできる

1. 「経費になるお金」と「経費にならないお金」の違い

相続で賃貸物件を引き継いだ場合、被相続人が組んでいたローンの残債や、建物の未償却残高もあわせて引き継ぐことになります。取得費加算の特例の適用可否も含め、相続直後からこのデッドクロスの問題を意識しておくことが重要です。

賃貸経営では、ローンの返済額のうち利息部分は経費になりますが、元金部分は経費になりません。一方、建物の減価償却費は、実際には現金の支出を伴わないにもかかわらず経費として計上できます。この2つの逆方向の性質が、時間の経過とともにねじれを生みます。

返済が進むにつれて元金返済額の割合は増え(または一定)、一方の減価償却費は、現在主流の定額法では耐用年数にわたって原則ほぼ一定額が計上され、耐用年数が終了するタイミングで大きく減少します(付属設備など耐用年数の異なる部分が先に償却を終える場合は、その分だけ段階的に減少することもあります)。この元金返済額が減価償却費を上回った状態を「デッドクロス」と呼びます。

2. 実務のポイント

(1) 「帳簿上は黒字、手元は赤字」が最大の落とし穴

デッドクロスが発生すると、実際のキャッシュフローに変化がなくても、税務上の利益(課税所得)は増加し、所得税・住民税の負担が重くなります。課税所得が増加するのは元金返済額が増えるからではなく、経費にできる利息部分や減価償却費が年々減っていくことが原因です。元金部分はそもそも借入当初から経費にならないため、元金返済額の増加自体が課税所得を直接押し上げるわけではありません。手元の現金は増えていないのに納税額だけが増えるため、資金繰りが悪化し、最悪の場合は黒字倒産のような状態に陥ることもあります。「利益が出ているから大丈夫」という感覚と、実際の資金繰りにズレが生じやすい点が、この問題の本質です。

(2) 木造アパートほど早く訪れる

減価償却期間は建物の構造によって異なり、木造は22年、RC造は47年です。鉄骨造は骨格材の肉厚によって細分化されており、骨格材の厚さが3mm以下の場合は19年、3mm超4mm以下の場合は27年、4mm超の場合は34年が法定耐用年数です。木造アパートは鉄骨造・RC造に比べて償却期間が短く、その分デッドクロスが早く訪れる傾向にあります。中古の木造物件を購入し、耐用年数を過ぎた分を短縮して数年で一気に償却するような節税重視の投資では、償却終了後のデッドクロスがほぼ避けられない構造になっている点は事前に理解しておく必要があります。中古物件の耐用年数は、法定耐用年数を超えている場合、簡便法(経過年数に応じた見積り年数)で算出することが一般的です。ただし簡便法が使えるのは、事業供用後の使用可能期間の見積りが困難な場合に限られ、また取得後に行った資本的支出の金額が取得価額の50%を超える場合は、簡便法を使えず原則的な耐用年数で計算する必要があります。

土地は減価償却できない — 土地の割合が高いほど起きやすい

減価償却の対象になるのは建物部分のみで、土地は減価償却できません。同じ借入総額でも、購入価格に占める土地の割合が高い物件ほど、借入のうち償却できない部分(土地分)が多くなり、年間の元金返済額に対して減価償却費が少なくなりやすいため、デッドクロスが発生しやすくなります。

(3) ローンの返済方式でも発生時期が変わる

ローンの返済方式には、毎月の元金返済額が一定の元金均等返済と、毎月の返済総額(元金+利息)が一定の元利均等返済があります。元金均等返済は毎月の元金返済額が当初から一定かつ大きいため、減価償却費とのバランスによってはデッドクロスが早期に発生しやすいという特徴があります。これに対し元利均等返済は、返済当初は元金返済額が少なく利息の割合が高いため、年数が経つにつれて元金返済額が増えていき、後年になってデッドクロスが生じやすい傾向があります。どちらの返済方式が有利かはこの特徴だけで一律に決まるものではなく、減価償却費の推移・借入期間・金利・保有予定期間などを含めた試算が必要です。

(4) 減価償却終了時期とローン完済時期のバランスが鍵

土地の取得にあてた借入部分は減価償却できないため、年間の元金返済額が年間の減価償却費を上回る状態は、減価償却期間とローンの返済期間がほぼ同時に終わる設計であっても、当初から生じ得ます。両者の終了時期を近づけることはデッドクロス対策の一つの方法ではありますが、それだけで発生しないことが保証されるわけではありません。逆に耐用年数に対して融資期間が極端に長い場合、償却が終わった後も長期間ローン返済だけが続き、その期間はずっとデッドクロス状態にさらされます。物件購入時に「この物件の耐用年数とローン期間のバランスはどうか」を試算しておくことが、後年の資金繰り悪化を防ぐ最も基本的な対策です。

(5) 「減価償却が終わる前」の売却が税負担を抑えやすい

減価償却が終わってからの売却は、建物の帳簿価額(簿価)がほぼゼロになっているため、譲渡所得の計算上、建物取得費として差し引ける金額はごくわずかになります。ただし、土地の取得費は建物と別に計算され、譲渡費用も控除できるほか、売却額のうち土地・建物にどう価額を配分するかによっても譲渡益の大きさは変わるため、「売却額のほとんどが譲渡益になる」と一律には言えません。これに対し、減価償却が終わる前に売却すれば、建物簿価がまだ残っている分、譲渡所得を抑えやすくなる面はあります。ただし、何年前に売却するのが有利かは物件ごとの簿価・譲渡費用・税率区分によって異なり、一律に「1〜2年前」が最適とは限りません。デッドクロスが差し迫っている物件については、保有を続けた場合の税引後手取り(家賃収入から税負担を差し引いた額)と、売却した場合の税引後手取り(譲渡益に対する税負担を差し引いた額)を具体的に試算し、比較したうえで判断することをお勧めします。なお、資産管理会社への売却により、法人側で改めて減価償却を計上し直すという対策も実務では行われています。ただし、この方法には譲渡所得税、不動産取得税、登録免許税といった移転コストが個人所有時とは別に発生するほか、時価との乖離(VOL.3参照)がある場合は同族会社間のみなし譲渡・低額譲渡として追加の課税リスクを指摘される可能性もあります。償却を計上し直せるという理由だけで実行すべき対策ではなく、移転コストを含めた総合的な試算が欠かせません。

なお、不動産所得が赤字になった場合、その赤字のうち土地取得のための借入金利子に相当する部分は、他の所得と損益通算できないというルールがあります。デッドクロス対策として物件の売却や資産管理会社への移転を検討する際は、この制限も踏まえて試算する必要があります。