◆ 30秒でわかる要約
- リースバックは通常の不動産売却と同じく、利益が出れば譲渡所得税の対象になる
- マイホーム売却の3,000万円特別控除は使えるが、親子・夫婦など特別な関係の相手への売却では適用できない
- リースバック事業者が「特殊な関係のある法人」に該当するかどうかは株主構成や役員関係などから個別に判定され、該当すれば3,000万円特別控除などの特例が使えなくなる
- 将来買戻しをする場合、不動産取得税・登録免許税・印紙税が新たに発生する
1. 「売っても住める」の裏にある税金の仕組み
リースバックは、自宅をリースバック事業者に売却し、同時にその事業者と賃貸借契約を結んで住み続ける仕組みです。老後資金の確保やローン返済、事業資金の調達などを目的に利用が広がっています。
税務上は通常の不動産売却と同じ扱いです。売却によって利益(譲渡所得)が出て課税譲渡所得が生じる場合や、3,000万円控除などの特例の適用を受ける場合は、原則として売却の翌年に確定申告が必要になります。リースバックは市場価格より低めの価格で売却されることが多く、譲渡所得が出にくい傾向はありますが、出ないと決まっているわけではありません。
2. 実務のポイント
(1) マイホームの3,000万円特別控除は使えるが「相手」に要注意
居住用財産の3,000万円特別控除は、居住実態があったこと、売却年の前年・前々年に同控除や一定の譲渡損失特例を受けていないこと、売却年・前年・前々年にマイホームの買換え・交換特例を受けていないこと、生計を一にする親族など特別な関係者への売却でないこと、確定申告を行うことなど、一定の要件を満たせばリースバックの場合にも適用できます。特例ごとに判定期間が異なるため、過去の申告状況もあわせて確認してください。ただし、売主と買主が親子や夫婦など特別な関係にある場合は適用できません。リースバック事業者が第三者の法人であれば通常この特例は使えますが、親族が経営する資産管理会社である場合など、売主にとって「特殊な関係のある法人」に該当するかどうかは、その法人の株主構成や役員との関係、支配関係などをもとに個別に判定されます。該当する可能性がある場合は、契約前に特別関係者要件に抵触しないか確認が欠かせません。また、相場より著しく低い価格で売却する場合、相手方によって課税関係が異なります。個人からリースバック事業者(法人)への売却が時価の2分の1未満であれば、売主に時価で譲渡したものとみなす課税が生じ得ます。親族など個人間での著しい低額譲渡では、買主が受けた時価との差額について贈与税が問題となります。第三者のリースバック事業者への通常の査定売却と、親族・同族の資産管理会社への低額譲渡は、分けて確認する必要があります。適正な価格で契約するためにも、複数のリースバック事業者から査定を取り、条件を総合的に比較することをお勧めします。
(2) 取得費が不明だと「売却額の5%」問題がそのまま当てはまる
VOL.1で扱った相続不動産の概算取得費5%の論点は、リースバックでも同様に当てはまります。取得費が不明な場合は、売却額の5%相当額を概算取得費として用いることができます。契約書、通帳、登記資料などから実際の取得費を立証できる場合は実額を用いることができ、実額と概算取得費を比較して有利な方を確認します。実額の記録がなく5%の概算取得費のみで計算せざるを得ない場合は、譲渡所得が大きく膨らむ可能性があります。相続で取得した古い自宅をリースバックする場合は特に、事前に取得費の資料を確認しておく必要があります。
(3) 所有期間5年の壁で税率が倍近く変わる
譲渡所得税率は、売却する年の1月1日時点での所有期間が5年を超えるかどうかで大きく変わります。長期譲渡所得(所有期間5年超)は20.315%であるのに対し、短期譲渡所得(5年以下)は39.63%とほぼ倍です。さらに、日本国内にある家屋とその敷地の双方を売却年1月1日時点で10年を超えて所有しているマイホームであれば、居住実態や過去の特例適用状況、買主との関係など所定の要件を満たすことを条件に、3,000万円控除後の6,000万円以下の部分に軽減税率(14.21%)が適用され、3,000万円控除と併用できます。所有期間の判定日は「売却する年の1月1日」であるため、単に数か月ずらしただけでは5年・10年の節目をまたぐことにはなりません。区分を変えたい場合は、売却を翌年に持ち越す(売却する年そのものをずらす)必要がある点に注意してください。
(4) 売却損が出た場合も「損益通算」の可能性がある
リースバックは市場価格より安く売却されることが多いため、譲渡損失が発生するケースもあります。マイホームの譲渡損失は原則として他の所得と損益通算できませんが、例外的に次のいずれかの特例の要件を満たす場合は損益通算が可能です。①買換えを伴う場合(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)、②買換えを伴わず、売買契約日の前日において償還期間10年以上の住宅ローンの残高があり、その残高が売却価額を上回っている場合(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例。所有期間が売却年の1月1日時点で5年超であることなどの要件があり、損益通算できる金額はローン残高から売却価額を差し引いた額が上限)です。いずれの特例も、令和8年度税制改正により適用期限が2027年12月31日まで2年延長されています。国税庁のタックスアンサーは更新時期によっては旧い期限表示のままとなっている場合があるため、施行法令もあわせて確認してください。通算しきれない損失は翌年以降3年間繰り越すことも可能です。「売却で損をしたから税金の話は関係ない」と考えず、損失が出た場合こそ確定申告での節税余地を確認すべきです。
(5) 将来の買戻しには「新規購入」と同じ税金がかかる
将来、資金に余裕ができて自宅を買い戻す場合、これは通常の不動産購入と同じ扱いになり、不動産取得税・登録免許税・印紙税に加え、仲介手数料や(ローンを利用する場合は)融資関連費用も新たに発生します。また、買戻し価格はあらかじめ契約で定められることが多く、当初の売却価格より高く設定されるのが一般的です。「もともと自分の家だったのだから買戻し時に税金はかからない」という誤解は禁物です。買戻しを見据えてリースバックを利用する場合は、将来のこれらのコストも資金計画に織り込んでおく必要があります。
(6) リースバック特有の契約リスクにも目を向ける
リースバックは税金以外にも押さえておくべき契約上のリスクがあります。定期借家契約は期間満了で契約が終了し、居住を続けるには貸主との再契約が必要です。普通借家契約の更新とはこの点で法的性質が異なるため、契約類型、再契約の条件、第三者への売却時の扱いを確認しておく必要があります。賃料が将来的に増額される可能性や、修繕費用の負担者、買戻しが「権利」として保証されているのか「優先交渉権」にとどまるのかも契約によって異なります。また、リースバック事業者が物件を第三者に転売した場合、賃貸借契約や買戻し条件がどう扱われるかも事前に確認しておく必要があります(国土交通省「住宅のリースバックに関するガイドブック」参照)。