◆ 30秒でわかる要約

  • 老朽化した土地・建物をデベロッパーに提供し、建て替え後の建物の一部を取得する「等価交換」には、立体買換え特例という強力な繰延べ制度がある
  • VOL.10で扱った通常の事業用資産の買換え特例(繰延80%)と異なり、この特例は要件を満たせば譲渡益の課税を100%繰延べできる
  • 対象地域は既成市街地等など一定区域に限定されており、どこでも使えるわけではない
  • 建替え期間中は家賃収入がゼロになる期間が生じるため、資金計画への織り込みが不可欠

1. 「売却」ではなく「等価交換」という選択肢

築40〜50年の老朽化したビルやアパートを持つ土地所有者にとって、建て替えたくても自己資金や借入余力が足りないという悩みは珍しくありません。このようなとき、土地所有者がデベロッパーに土地を提供し、デベロッパーが建設費を全額負担して中高層の建物を建て、完成後の建物を土地・建物の評価割合に応じて区分所有する「等価交換」という手法があります。借入をせずに新しい建物の一部を取得できる仕組みです。

この等価交換を行う際の税務上の後ろ盾となるのが「立体買換え特例」(既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の特例)です。

2. 実務のポイント

(1) VOL.10の買換え特例より繰延率が高い

以前のコラムで扱った事業用資産の買換え特例(措置法37条)は繰延割合が原則80%で、譲渡益の20%は必ず課税対象として残ります。これに対し立体買換え特例は、取得する建物の価額が譲渡する土地等の価額以上であれば、譲渡がなかったものとして課税を100%繰延べできます。老朽化した収益物件の建て替えを検討する場合、この2つの特例のどちらが自分のケースに合うかを比較する価値があります。

(2) 対象地域が限定されている

この特例が使えるのは、首都圏の既成市街地、近畿圏の既成都市区域、名古屋市の区域、または一定の再開発事業の促進地区・中心市街地共同住宅供給事業の区域内にある土地等に限られます。地方の郊外や、対象区域外にある物件では、そもそもこの特例の土俵に乗りません。等価交換を検討する前に、対象物件がこれらの区域内に該当するかどうかを最初に確認する必要があります。

(3) 取得する建物には「階数」「用途」の要件がある

買換資産となる建物は、耐火建築物または準耐火建築物で3階建て以上であることに加え、多くのパターンで床面積の2分の1以上が居住用に供されることが要件となります。特定民間再開発事業による買換え(地上階数4以上)など、要件がやや異なる区分も存在するため、建築予定の建物がどの区分に該当するかによって満たすべき条件が変わります。事務所や店舗中心の建替えを考えている場合は、この居住用割合の要件を満たせるかどうかが特例適用の分かれ目になります。

(4) 建替え期間中の「家賃収入ゼロ」を資金計画に織り込む

等価交換による建替えは、解体から新築完成まで一般に2〜3年、事業全体では3〜5年程度を要することが多く、その間は既存の賃貸収入が途絶えます。譲渡税の負担は抑えられても、建替え期間中のキャッシュフローの空白期間をどう乗り切るかは別の資金計画上の課題です。特例の税務メリットだけに気を取られず、事業期間全体を見据えた収支計画を立てる必要があります。

(5) 他の特例との選択適用——併用はできない

立体買換え特例は、居住用財産の3,000万円特別控除や、VOL.10で扱った事業用資産の買換え特例などとの選択適用となっており、同時に併用することはできません。また、中高層建築物の取得が困難な特別な事情がある場合には、この特例に代えて事業用資産の買換え特例(繰延80%)の適用を受けることも認められています。どの特例を選ぶかによって最終的な税負担が変わるため、複数のシナリオで試算したうえで判断することが重要です。