◆ 30秒でわかる要約

  • 従来「根は自分で切れるが、枝は所有者に切ってもらうしかない」という不均衡なルールだったが、2023年4月施行の改正で枝も一定条件で自ら切れるようになった
  • 条件は①催告しても切除されない、②所有者が不明、③急迫の事情があるのいずれか
  • 催告後の「相当の期間」の目安は2週間程度とされている
  • 切除費用は原則として竹木の所有者に請求できるが、実際には交渉や裁判が必要になることもある

1. VOL.27VOL.31の続き——放置された隣家とのトラブル対応

VOL.27では相続放棄後の空き家管理義務、VOL.31では空き家の固定資産税増額リスクを扱いました。今回は視点を変え、「自分の土地に隣の空き家から木の枝が伸びてきて困っている」という、より身近なトラブルへの対処法です。

従来の民法では、隣地の竹木のが境界を越えてきた場合は自分で切り取ってよいとされる一方、が越境してきた場合は竹木の所有者に切除させることしかできず、応じてもらえなければ訴訟を提起して判決を得るしかありませんでした。所有者不明の空き家が増える中でこの手続きの重さが問題視され、2021年の民法改正(2023年4月施行)により、枝についても一定の条件下で自ら切除できるルールが新設されました。

2. 実務のポイント

(1) 自ら切除できるのは「3つの場合」のみ

改正後の民法233条3項により、次のいずれかに該当する場合、越境された土地の所有者は自ら枝を切り取ることができます。

  • 竹木の所有者に枝の切除を催告したが、相当の期間内に切除されないとき
  • 竹木の所有者が不明、または所在が分からないとき
  • 台風で枝が折れかかっているなど、急迫の事情があるとき

相続放棄や長年の放置で所有者不明となった隣接空き家からの越境については、2つ目の要件(所有者不明)に該当しやすく、この改正の恩恵を受けやすいケースといえます。

(2) 「相当の期間」の目安は2週間程度

催告後にどれくらい待てば切除してよいかについて、法務省の解説では基本的に2週間程度が目安とされています。ただし越境している竹木の本数や状況によって個別に判断されるため、一律の期間ではありません。催告は口頭ではなく、内容証明郵便など記録が残る方法で行っておくことが、後日のトラブル防止の観点から望ましいとされています。

(3) 共有の竹木は共有者の1人からでも切除できるようになった

隣地が相続未登記のまま複数の相続人による共有状態になっているケースは珍しくありません。改正前は共有者全員を相手にした判決(債務名義)を取得する必要がありましたが、改正後は共有者の1人に対する判決だけで足りるようになり、手続きの負担が軽減されました。また、竹木の共有者自身についても、他の共有者の同意を得ずに単独で越境した枝を切り取れるようになっています。

(4) 切除費用は原則として竹木の所有者に請求できる

枝の越境は竹木の所有者による土地所有権の侵害にあたり、越境された側が代わりに切除することで、竹木の所有者は本来負うべき切除義務を免れることになります。この考え方から、切除にかかった費用は竹木の所有者に請求できると解されています。ただし、条文自体に費用負担の明文規定はなく、支払いを拒否された場合は民法703条(不当利得)や709条(不法行為)を根拠に、最終的には裁判で請求額を確定させる必要が生じることもあります。実務上は、費用が一時的に持ち出しになる可能性も踏まえておく必要があります。

(5) 切り取った枝の所有権は「切った側」に帰属する

法務省の立法担当者による解説によれば、改正後の規定に基づき切除した枝の所有権は、切除した土地所有者側に帰属し、自由に処分できるとされています。ただし、必要以上に枝を切りすぎることは権利濫用として違法になり得る点、境界がそもそも確定していない場合は越境の有無自体が争いになり得る点には注意が必要です。実際に切除を進める際は、事前に弁護士や土地家屋調査士に相談し、境界の確認と適切な手順を踏むことをお勧めします。