◆ 30秒でわかる要約
- VOL.9で扱った2024年のマンション評価改正は、「居住用」の区分所有建物だけを対象としている
- 登記簿上「事務所」など居住用以外の区分所有オフィスは、この改正の適用対象外——現行の評価方法のまま
- ただし2027年からの「貸付用不動産5年ルール」(VOL.7参照)は区分所有オフィスにも及ぶため、規制を完全に免れるわけではない
- 「規制対象外だから絶対安全」ではなく、総則6項による個別否認リスクは依然として残る
1. なぜ「事務所」だと規制の網にかからないのか
VOL.9で扱った2024年施行のマンション評価改正(区分所有補正率の導入)は、正式には「居住用の区分所有財産」を対象とする通達です。対象範囲は構造上主として居住の用途に供する、登記簿上「居宅」と表示される専有部分に限られており、事務所・店舗など事業用のテナント物件、いわゆる区分所有オフィスは、当初からこの改正の適用対象に含まれていません。
この結果、居住用マンションでは節税効果が縮小した一方、事業用の区分所有オフィスは従来どおりの評価方法(路線価×敷地権割合、固定資産税評価額)が引き続き使え、都心部の物件では時価に対して大幅な評価減が得られる状態が続いています。
2. 実務のポイント
(1) 対象外となる要件は「登記簿の表示」で判断される
2024年改正の適用対象からは、オフィスや商業ビルなど構造上主として居住用に供することができないもの、区分建物登記のない一棟所有の賃貸マンション、総階数2以下の低層集合住宅、専有部分3室以下の二世帯住宅型などが除外されています。実務上は登記簿上の種類欄(居宅か事務所か)がまず判断の出発点になりますが、相続時点で事務所として実際に使用していても、登記が「居宅」のままであれば改正の適用対象に含まれてしまう点には注意が必要です。逆もまた然りで、実態と登記のずれがある物件は、慎重な事前確認が求められます。
(2) それでも「2027年5年ルール」からは逃げられない
区分所有オフィスが2024年のマンション評価改正の対象外であっても、これは貸付用不動産に該当することに変わりはありません。VOL.7で扱った令和8年度税制改正の「5年ルール」——相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産は時価の80%水準で評価される——は、区分所有オフィスにも適用されます。「マンション規制の対象外だから節税し放題」ではなく、取得から5年を超えて保有することが、この規制を回避するための前提条件になります。
(3) 5年以内は時価評価、5年超は従来評価という二段構え
整理すると、区分所有オフィスの評価は次のようになります。取得から5年以内に相続が発生した場合は時価の80%水準で評価され、節税効果はほぼ失われます。取得から5年を超えて保有していれば、従来どおりの評価方法が適用され、都心部の物件では時価に対して大きな評価減が得られる可能性があります。節税目的で区分所有オフィスの購入を検討するのであれば、5年を超える長期保有を前提とした計画を立てる必要があり、直前の駆け込み購入では意図した効果は得られません。
(4) 多額の借入金による取得は依然として警戒対象
2024年の改正が公表された当初から、税務当局は「規制対象外の一棟マンションや事務所登記の物件を、多額の借入金で購入する」という迂回的な節税手法についても引き続き問題視する姿勢を示しています。区分所有オフィスが形式的に規制の対象外であっても、相続直前に多額の借入をして取得するようなケースでは、VOL.9で扱った総則6項による個別否認のリスクが依然として残ります。規制の隙間を狙った短期的なスキームには慎重な検討が必要です。
(5) 将来の規制拡大リスクも織り込んでおく
区分所有オフィスや一棟マンションは、居住用マンション・不動産小口化商品に続いて将来的に規制対象が拡大される可能性がある領域です。現時点で対象外であることは、将来にわたって対象外であり続けることを保証するものではありません。節税効果だけを最優先にした投資判断ではなく、立地・流動性・収益性を含めた資産運用としての妥当性を併せて検討することをお勧めします。