◆ 30秒でわかる要約

  • 賃貸マンション・アパートの土地は「貸家建付地」として、更地より相続税評価額が下がる
  • 「小規模宅地等の特例」を組み合わせると、さらに評価額を最大50%減額できる
  • 令和8年度(2026年度)税制改正により、2027年1月1日以後に相続等(遺贈・贈与を含む)により取得する財産から、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得・新築した一定の貸付用不動産は、原則として通常の取引価額を基に評価される
  • 通達に定める日の5年前から所有する土地に新築した家屋(建築中を含む)には適用しない経過措置が明示されているが、具体的な取扱いは今後の通達で確認が必要

1. まず基本——「貸家建付地」の評価減の仕組み

自分の土地にアパートやマンションを建てて人に貸している場合、その土地は「貸家建付地」として、更地よりも評価額が下がります。計算式は次のとおりです。

貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合(30%) × 賃貸割合)

例えば自用地評価額6,000万円、借地権割合60%、賃貸割合100%の土地であれば、評価額は約4,920万円まで下がります。建物についても、固定資産税評価額から借家権割合と賃貸割合を控除して評価するため、賃貸物件は現金や更地で保有するより評価額が圧縮されます。これに加えて土地が「貸付事業用宅地等」の要件を満たせば、小規模宅地等の特例により200㎡までの部分の評価額をさらに50%減額できます。なお、評価額の計算に使う「賃貸割合」は課税時期の賃貸状況で判定しますが、継続的に賃貸されてきた物件の一時的な空室は、一定の要件のもとで賃貸中と同様に取り扱われる場合があります(国税庁質疑応答事例参照)。空室期間や募集状況の記録を残しておくことが重要です。

現金や更地をそのまま持つより、賃貸物件に組み替えることで相続税評価額を圧縮できる——これが賃貸経営が相続対策として広く使われてきた理由です。

2. 実務のポイント

(1) 2027年1月以降、「5年ルール」が導入される

令和8年度(2026年度)税制改正により、2027年1月1日以後に発生する相続・贈与等について、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築した一定の貸付用不動産は、原則として通常の取引価額を基に評価することとされました。適用されるのは、2027年1月1日以後に相続等(遺贈・贈与を含む)により取得する財産に係る評価からです。

なお「取得価額の8割」という数字が独り歩きしていますが、正確には、課税上弊害がないと認められる場合に、取得価額を基礎として地価変動等を反映した価額の80%相当額によって評価できる、というものです。単純な「購入価格×0.8」ではありません。「対価を伴う取引により」取得したものが対象なので、相続や贈与で承継した物件をそのまま持ち続けている場合は、この5年ルールの直接の対象にはなりません。

(2) 「相続直前の駆け込み購入」が対象

この改正が狙っているのは、賃貸用不動産の市場価格と相続税評価額の乖離を利用し、相続直前に借入をして賃貸物件を購入・新築することで評価額を圧縮するスキームです。長期保有を前提とした通常の賃貸経営そのものを否定するものではなく、直前の駆け込み購入への対応という位置づけです。背景には、市場価格と相続税評価額の乖離を利用した過度な節税への対応と、取得価額という客観的に確認できる数値に基づく評価を重視する流れがあります。賃貸物件の取得は、相続税の評価減だけでなく、収益性・流動性・借入リスクまで含めた総合的な判断が必要です。

(3) 「5年以上前から所有する土地への新築」には経過措置がある

令和8年度税制改正大綱では、国税庁通達に定める日の5年前から所有している土地の上に新築した家屋(建築中を含む)については、この評価方法を適用しない旨の経過措置が明示されています。先祖代々の土地にアパートを新築するようなケースが典型です。もっとも、経過措置の詳細な適用範囲など具体的な取扱いは、今後発出される通達で確認する必要があります。土地の取得時期と建物の建築時期をそれぞれ記録しておき、通達の公表後に自分のケースが該当するかを確認することをお勧めします。

(4) 5年ルールと小規模宅地等の特例は別制度——ただし「当然に併用できる」わけではない

本ルールと小規模宅地等の特例は別制度です。5年ルールで評価方法が変わることと、小規模宅地等の特例が使えるかどうかは、それぞれ別の要件で判定されます。ただし、貸付事業用宅地等については、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除外する制限が従来からあるため、取得から5年以内の物件では、5年ルールによる時価評価と小規模宅地等の特例の適用不可が重なる可能性があり、当然に併用できるわけではありません。適用関係は物件ごとの時系列を確認したうえでの個別判断が必要です。

(5) これから賃貸物件を検討する人への影響

相続税対策として賃貸物件の建築・購入を検討している場合、5年以内に相続が発生する可能性が高いケースでは、従来想定していたほどの評価減効果が得られない可能性があります。長期保有を前提とした計画であれば、取得から5年を経過した物件は本ルールの対象外となる見込みです。ただし、賃貸状況や物件の性質、今後発出される通達の内容、個別の事情によって取扱いが異なる場合があり、「5年経てば必ず従来の評価減に戻る」と保証されているわけではありません。年齢や健康状態、資産全体の構成を踏まえて、購入・新築のタイミングと保有計画を検討する必要があります。