◆ 30秒でわかる要約

  • 公共事業のために土地建物が収用される場合、「5,000万円特別控除」「代替資産取得による課税繰延べ」の2つの特例があり、選択適用となる
  • 5,000万円控除は最初の買取り申出から6か月以内に譲渡しないと使えない——交渉の長期化が命取りになる
  • 代替資産の特例には6か月ルールはないが、原則収用等のあった年の翌年12月31日までに代替資産を取得する必要がある
  • 補償金には対価補償金・収益補償金・経費補償金など種類があり、5,000万円控除が使えるのは対価補償金のみ

1. 「強制的な売却」だからこその優遇措置

道路拡張や再開発など、土地収用法その他の法律に基づく公共事業のために土地建物を手放す場合、所有者は自らの意思とは無関係に資産を売却することになります。この特殊性を踏まえ、通常の譲渡より手厚い税制優遇措置が2つ用意されています。1つは譲渡所得から最大5,000万円を控除する特別控除、もう1つは補償金で代替資産を取得すれば課税を繰り延べられる代替資産の特例です。

この2つは選択適用であり、同時に適用することはできません。どちらが有利かは、譲渡益の規模と代替資産取得の予定があるかどうかで変わります。

2. 実務のポイント

(1) 5,000万円控除には「6か月」という時限爆弾がある

5,000万円特別控除を受けるには、事業施行者から最初に買取り等の申出があった日から6か月以内に譲渡することが要件の一つです。補償金額の交渉に時間をかけすぎて6か月を超えてしまうと、たとえ最終的に合意できても、この特別控除は受けられなくなります。いわゆる「ゴネ得」を防ぐ趣旨で設けられた要件ですが、実務では交渉の長期化により控除を逃すケースが実際に起きています。買取り申出証明書に記載された日付を必ず確認し、6か月以内の合意成立を意識してスケジュールを管理する必要があります。

(2) 代替資産の特例には6か月ルールはないが「翌年12月31日」の期限がある

代替資産の特例(課税繰延べ)には5,000万円控除のような6か月の期限はありません。ただし、代替資産は原則として収用等のあった年の翌年12月31日までに取得する必要があります。交渉が長引き、5,000万円控除の要件(6か月以内の譲渡)を満たせなくなった場合でも、代替資産の特例であれば適用できる可能性がある点は覚えておく価値があります。

(3) どちらを選ぶかは譲渡益と再取得計画次第

譲渡益が5,000万円以下であれば、特別控除を使うだけで課税所得はゼロになり、シンプルに完結します。一方、譲渡益が5,000万円を超え、かつ代替となる不動産を取得する具体的な計画がある場合は、代替資産の特例で課税を繰り延べた方が有利になるケースが多くあります。ただし代替資産の特例はあくまで「繰延べ」であり、取得した代替資産の取得価額は元の資産から引き継がれるため、将来その代替資産を売却する際には大きな譲渡益が計上される点に注意が必要です(VOL.10VOL.20で扱った買換え特例と同じ構造です)。

(4) 補償金の「種類」によって課税関係が異なる

収用に伴い受け取る補償金には、資産そのものの対価である対価補償金のほか、営業上の損失を補償する収益補償金、移転費用等を補償する経費補償金などがあります。5,000万円控除が使えるのは対価補償金のみで、収益補償金は事業所得や不動産所得として、経費補償金のうち実際の支出を上回る余剰分は一時所得として、それぞれ別枠で課税されます。「補償金だから全部同じ扱い」ではなく、収用証明書等に記載された補償金の区分ごとに課税関係を確認する必要があります。

(5) 同一事業で複数年にまたがる場合、控除は最初の年だけ

同一の公共事業のために、資産の譲渡が2年以上にわたって行われた場合、5,000万円控除は最初の年に譲渡した資産についてのみ適用されます。2年目以降に同じ事業のために譲渡した資産には、この特別控除は使えません。複数の土地を段階的に買収されるようなケースでは、どの年にどの土地を譲渡するかによって、控除を受けられるかどうかが変わってくる点に注意が必要です。