◆ 30秒でわかる要約

  • M&Aで会社を譲渡する際、自社ビルや工場用地だけを事前に切り離し、事業のみを承継させる手法として会社分割がよく使われる
  • 不動産を手元に残す設計には、①不動産を元の会社に残し事業を承継会社へ移す方法と、②不動産を承継会社へ移し元の会社の株式を売る方法があり、不動産取得税の判定が必要なのは②など不動産を取得する会社があるケースで、会社分割というだけで一律に課税されるわけではない
  • 非課税要件は分割類型で異なり、分社型分割では対価・主要資産負債移転・事業継続・従業者80%引継ぎの4要件が基本(分割型分割はこれに株式按分交付要件が加わる)。無対価分割も要件を満たし得る
  • 分割事業に従業者が全くいない場合、従業者80%要件を満たすかの判定は一律ではなく管轄の都道府県税事務所への事前確認が必要で、少数でもいる場合はその従事見込みの確認が必要
  • 会社分割・事業譲渡・株式譲渡は、不動産を残せるか、契約承継に個別の同意が必要か、不動産取得税・登録免許税・消費税の扱いがそれぞれ異なる。比較表と判断フローで、自分のケースでどの手法が候補になり得るかを整理できる

まず確認したいこと(簡易チェック)

  • 譲渡(M&A)の対象から不動産を外したいのか、不動産も含めて会社ごと譲渡してよいのか
  • 不動産を「元の会社」に残すのか、「別会社(承継会社)」に集約するのか
  • その不動産に金融機関の担保・融資契約がついていないか
  • 分割する事業に従業者が何人いるか(0人か、1人以上か)
  • 会社分割を実行するタイミングが、株式譲渡・事業譲渡等の実行(予定)時期より十分前か

会社を譲渡する前に、なぜ「不動産だけ残す」ニーズが生まれるのか

事業会社と不動産保有会社を会社分割によってあらかじめ分離しておくと、事業承継の場面でも、承継する事業会社の株式評価と、手元に残す不動産保有会社の株式評価を切り分けて検討できるようになります。事業承継税制(自社株の納税猶予)の適用可否にも影響し得るため、M&Aだけでなく親族内・従業員承継を検討する段階から会社分割を選択肢に入れるケースもあります。自社株の納税猶予、不動産賃貸業だと使えないことがありますで解説しているとおり、会社に不動産賃貸業の資産・収入が多く残ると事業承継税制の認定要件に影響することがあり、経営者の相続と事業承継税制の全体像は会社経営者の相続——自社株の事業承継税制(特例措置)で解説しています。M&Aで会社を売却する際、買い手が欲しいのは事業そのものであって、社長個人や資産管理会社が持つ本社ビル・工場用地までは引き継ぎたくない、というケースは非常に多くあります。売り手側も、先祖代々の土地や含み益の大きい不動産は手元に残し、事業だけを譲りたいという事情があります。

このようなときに使われるのが会社分割です。事業に必要な資産・負債・契約・従業員を包括的に切り出して別会社(または既存会社)に承継させる設計ができます。不動産を元の会社または別のグループ会社に残す設計は可能です。会社所有の不動産を株主個人へ移転する場合は、会社分割とは別の取引と税務検討が必要です(社長個人の不動産を自社に売る、その価格は誰が決めていますか?で扱っている法人・個人間の不動産取引の適正価格の論点も参考にしてください)。

不動産を手元に残す2つの設計

不動産を手元に残す会社分割には、主に二つの設計があります。①不動産を元の会社に残して事業を新会社・既存会社へ承継させ、その承継会社の株式を売る方法と、②不動産を別会社へ承継させ、不動産を外した元の事業会社の株式を売る方法です。どちらの設計でも、譲渡するのは「事業を持つ会社の株式」であり、不動産そのものは売却対象になりません。不動産を残す会社を資産管理会社として位置づけ、賃貸収入を受け続ける設計にするケースもあります。

設計

不動産の保有者

譲渡する株式

不動産取得税の判定要否

①不動産を元の会社に残す

元の会社(分割会社)

承継会社(事業を移した会社)の株式

原則不要(承継会社は不動産を取得しない)

②不動産を承継会社へ移す

承継会社(不動産を集めた会社)

元の会社(不動産を外した事業会社)の株式

必要(承継会社が不動産を取得するため)

不動産取得税の判定が必要になるのは、会社分割によって不動産を取得する会社があるケース、つまり上記②のような設計です。会社分割というだけで一律に不動産取得税がかかるわけではありません。どちらの設計を採るかは、事業の運営主体をどちらに残すか、従業員をどちらに帰属させるか、既存の許認可・契約をどちらに残すかといった事業上の要請から決まることが多く、税務だけで選べるものではありません。

会社分割・事業譲渡・株式譲渡を比較する

不動産を手元に残しつつ会社(事業)を譲渡する手法は、会社分割だけではありません。事業譲渡や、株式譲渡と組み合わせた設計も選択肢になります。三つの手法は、不動産を残せるかどうかだけでなく、契約承継の方法、税務上の扱いが大きく異なります。以下は代表的な違いを整理したものであり、個別の事案では前提が異なれば結論も変わります。

比較軸

会社分割(分社型)

事業譲渡

株式譲渡

不動産を手元に残せるか

設計次第で残せる(不動産を元の会社に残す、または承継会社に集約して元の会社の株式を譲渡する)

譲渡対象資産を個別に選べるため、不動産を対象から外せば残せる

会社ごと譲渡するため単独では残せない(事前に会社分割・事業譲渡で切り離す必要がある)

契約承継の方法

原則として包括承継(会社法上、権利義務が当然に承継法人へ移転)

特定承継(資産・契約を個別に移転する必要がある)

契約主体(会社)自体は変わらない

個別の同意

原則不要(ただしチェンジ・オブ・コントロール条項があれば別途対応)

契約相手方の承諾が原則必要

原則不要(ただしチェンジ・オブ・コントロール条項があれば別途対応)

不動産取得税

非課税要件を満たせば非課税、満たさなければ課税

通常の売買と同様に課税されるのが原則(経営力向上計画の認定を受けた場合の軽減措置は別途あり)

不動産の名義が変わらないため課税対象外

登録免許税(不動産分)

原則2.0%(「その他の原因」による移転の区分)

通常の売買と同じ区分(土地は軽減特例適用で1.5%、家屋は2.0%)

発生しない(不動産の所有権移転登記が生じないため)

消費税

不課税(包括承継のため)

土地は非課税、建物等の課税資産は課税

非課税(有価証券の譲渡、消費税法別表第二)

手続負担

株主総会特別決議・債権者保護手続・労働契約承継法上の通知協議・登記など会社法・労働法上の手続が必要

株主総会特別決議(重要な事業譲渡の場合)に加え、資産・契約ごとの個別の移転手続、許認可の再取得が必要になることがある

株式の移転手続が中心で、資産・契約ごとの個別移転は不要

M&Aとの相性

直前に組むと非課税要件・適格要件を満たしにくくなることがあるため、事前の設計が必要

対象資産を柔軟に選べる一方、対象資産が多いと個別手続の負担が増える

不動産を含め会社全体を譲渡する前提のため、不動産だけを残したい場合は単独では使えない

事業譲渡は、譲渡する資産・契約を個別に選べる柔軟さが利点ですが、取引先との契約・許認可・従業員の雇用契約などを一件ずつ移す必要があり、契約の相手方の承諾を得られなければ移転できません。契約上の地位を移転するには原則として契約の相手方の承諾が必要とされています(民法539条の2)。会社分割はこれに対し、分割契約(計画)書で定めた権利義務が法律上当然に承継法人へ移転する包括承継であるため、個別の相手方の承諾が原則として不要です(ただし、契約書に会社分割を解除事由・承諾事由とする条項がある場合は別途対応が必要です)。株式譲渡は、会社そのもの(株式)を譲渡するため、不動産を含む資産・契約はそのまま会社に残ります。不動産だけを手元に残したいのであれば、株式譲渡の前段階で会社分割や事業譲渡によって不動産を切り離しておく必要があります。株式の財産評価の考え方は非上場株式(自社株)の相続税評価の仕組みで解説している内容が土台として参考になります(M&Aにおける実際の譲渡価額は、相続税評価とは異なるDCF法・類似会社比較法等で算定されるのが一般的です)。

判断フロー——自分の場合、会社分割を検討すべきか

以下は、検索者が自分のケースでどの手法が候補になり得るかを整理するための一般的な流れです。実際の可否は、対象の事業内容、契約関係、担保設定、株主構成など個別の事実関係によって変わるため、最終的な判断は専門家に確認してください。

  1. 会社(事業)を譲渡する予定・検討がある
  2. 保有する不動産(自社ビル・工場用地等)を、譲渡の対象から外したいか。外したくない場合は、不動産を含めた株式譲渡など通常のM&A手法を検討する
  3. 外したい場合、その不動産を「元の会社に残すか」「別の会社(承継会社)に集約するか」を決める。社長個人の土地に会社が建物を建てる、権利金は本当に不要ですか?で扱っているような、社長個人名義の土地の上に会社所有の建物がある場合は、その借地関係も含めて整理が必要になる
  4. 会社分割・事業譲渡のどちらで不動産を切り離すかを比較表で確認する(契約承継の方法、個別の同意の要否、不動産取得税・登録免許税・消費税の扱い、手続負担)
  5. 会社分割を選ぶ場合、不動産取得税の非課税要件(分割対価・主要資産等引継・従業者引継・事業継続、分割型はさらに按分型分割要件)を満たせそうかを確認する
  6. 選んだ手法について、法人税(適格分割か非適格分割か)、登録免許税、消費税の扱いを個別に確認する
  7. 会社法上の手続(株主総会特別決議・債権者保護手続)、労働契約承継法上の通知・協議、登記のスケジュールを確認する
  8. 税理士・弁護士・司法書士など専門家に、契約書・登記事項証明書等の資料を示して個別に相談する

実務のポイント

A. 地方税法上の一定の会社分割に係る不動産取得税の非課税

会社分割によって不動産を承継した場合、不動産取得税は原則として課税されます。ただし、地方税法第73条の7第2号後段・地方税法施行令第37条の14に定める要件を満たす場合には非課税となります。非課税要件は、分割型・分社型、吸収・新設、対価の有無や内容などによって判定します。以下は代表的な要件の概要であり、すべての会社分割に一律に同じ要件が適用されるわけではありません。分社型分割では下記の分割対価・主要資産等引継・従業者引継・事業継続の4要件が基本であり、分割型分割ではこれに按分型分割要件が加わります。

  • 分割対価要件:対価として分割承継法人の株式以外の資産が交付されないこと
  • 主要資産等引継要件:分割事業に関する主要な資産・負債が承継法人に移転していること
  • 従業者引継要件:分割前に事業に従事していた従業員の概ね80%以上が、分割後も引き続き従事する見込みであること
  • 事業継続要件:分割した事業が、分割後も承継法人において引き続き営まれること
  • 按分型分割要件:分割型分割の場合、分割元の株主が持株比率に応じて承継会社の株式を受け取る形であること

無対価分割も、株式以外の資産を交付しないという要件を満たし得ますが、資本関係や分割類型を含めて個別に判定します。現金など株式以外の対価を交付すると、この非課税要件から即座に外れてしまいます。「一部だけ現金精算したい」という要望が出やすい場面ですが、それだけで課税に転じるリスクがある点は事前に伝えておくべきポイントです。非課税の判定・手続は不動産所在地の都道府県税事務所へ事前に確認してください。分割契約書・分割計画書、登記事項証明書、承継する主要資産・負債の一覧、分割前後の従業者、事業継続を示す資料等を保存し、照会・申告に備えます。

B. 経営力向上計画に基づくM&A支援措置(中小企業庁)

中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けたうえで、他の事業者から事業を譲り受ける場合には、上記Aの会社分割の非課税とは別の制度として、不動産取得税・登録免許税の軽減・非課税措置が設けられています。経営力向上計画の認定を受け、他の事業者から事業譲渡により不動産を取得する場合、現行制度では不動産取得税の課税標準から不動産価格の6分の1相当額が控除されます。税率換算では、通常3.0%の土地・住宅が2.5%、通常4.0%の住宅以外の家屋が約3.3%となり、特例の適用期限は2028年3月31日です。なお、認定経営力向上計画に基づく登記の登録免許税軽減は期限到来で廃止されています。登録免許税について別の認定事業再編計画等の特例を検討する場合は、その根拠法、認定要件、認定期限を別途確認してください。合併や一定の会社分割による取得は、別途、不動産取得税が非課税となる場合があります。Aの非課税(地方税法上の一般的な会社分割の非課税要件)と、Bの軽減・非課税(経営力向上計画の認定を前提とする中小企業庁の支援措置)は、根拠法令も要件も異なる別制度である点に注意が必要です。

(2) 「不動産だけ切り離す」設計は従業員引継ぎ要件と衝突しやすい

分割事業に従業者が全くいない場合、従業者80%要件を満たすかどうかは一律に決まるものではなく、管轄の都道府県税事務所への事前確認が必要です。従業者が1人でもいる場合は、その者が分割後も承継法人の業務に従事する見込みかを確認します。代表取締役などの役員も、分割事業に現に従事していれば従業者に含まれ得ます。なお、従業者要件の判定にかかわらず、主要資産・負債の移転と事業継続の要件は別途満たす必要があり、実態のない不動産移転が当然に非課税となるわけではありません。

(3) 登録免許税は原則として非課税にならない

会社分割による不動産所有権移転登記の登録免許税は、本則では不動産価額の2.0%(1000分の20)です。国税庁の登録免許税の税額表によれば、土地の所有権移転登記のうち軽減税率(1000分の15、令和8年度税制改正により2029年3月31日(令和11年3月31日)まで延長された時限措置)が適用されるのは売買を原因とするものに限られ、相続・法人の合併・共有物の分割による移転は1000分の4、これら以外の原因による移転は1000分の20とされています。会社分割による移転はこの「合併」の軽減区分には含まれず、原則として1000分の20の区分で計算する必要があります。これとは別に、産業競争力強化法上の認定事業再編計画等に基づく登記には軽減措置が適用される場合があります。経営力向上計画の不動産取得税特例とは別制度であるため、計画名、認定主体、対象取引、認定期限を混同しないよう確認してください。「不動産取得税が非課税だから登録免許税もかからない」という誤解が生じやすいので、両者は別物であることを明確に説明しておく必要があります。

(4) 法人税は「適格」か「非適格」かで結論が変わる

会社分割に伴う法人税の扱いは、税制適格要件を満たす「適格分割」か、満たさない「非適格分割」かによって大きく異なります。適格分割の要件は、分割法人と承継法人の完全支配関係・支配関係の有無や、共同事業として行う分割かによって異なります。株式のみの交付や従業者80%引継ぎだけで一律に判定することはできません。適格分割では承継資産を税務上の帳簿価額で引き継ぐため、分割時点の含み益課税は原則として将来へ繰り延べられます。永久的な非課税ではありません。非適格分割では、時価で引き継いだものとして譲渡益に課税されます。不動産取得税の非課税要件と法人税の適格要件は似て非なる基準であり、片方を満たしても他方は満たさないケースもあるため、両方を個別に検証する必要があります。

会社分割では権利義務を包括承継するのが原則ですが、許認可が当然に承継されるとは限りません。個別法、契約条項、融資契約、担保設定等を事前に確認する必要があります。

(5) 分割型分割と分社型分割

会社分割は、承継法人の株式の交付先によって「分割型分割」(分割法人の株主に株式を交付する)と「分社型分割」(分割法人自身に株式を交付する)に分かれます。不動産取得税の非課税要件・適格要件のいずれについても、分割型か分社型かによって判定の視点が異なります。

(6) 消費税の取扱い

会社分割による資産の移転は、包括承継であるため、通常の売買や事業譲渡とは異なり、消費税の課税対象外(不課税)として扱われます。これに対し、会社分割ではなく個別の事業譲渡や資産売買によって不動産を移転する場合は、土地の譲渡は非課税であるものの、建物の譲渡には消費税が課税され得ます。株式譲渡の場合は、有価証券(株式)の譲渡として消費税法上の非課税取引に整理されます(消費税法別表第二)。会社分割の「不課税」、事業譲渡の建物部分の「課税」、株式譲渡の「非課税」は、いずれも法令上の位置づけ(不課税・非課税・課税)が異なる点に注意してください。どの手法を選ぶかによって消費税の負担が変わり得る点は、事前の比較検討が必要です。

(7) 法務手続も並行して必要

会社分割には、原則として株主総会の特別決議、債権者保護手続(公告・催告)、労働契約承継法に基づく労働者への通知・協議、分割契約(計画)書の作成、分割の効力発生後の登記など、税務とは別の法務手続が必要です。株主総会承認は原則必要ですが、簡易分割・略式分割などの例外があります。債権者保護手続も、分割型・分社型、債務の承継方法、履行見込みによって異議を述べられる債権者の範囲が変わります。労働関係では、労働者・労働組合への書面通知、必要な協議に加え、対象労働者へ所定の異議申出期間を確保します。スケジュールは税務・法務の両面、個別の契約・計画に基づき逆算して組む必要があります。会社分割によって事業を承継させた後、その承継法人の株式を売却する場合は、株式の譲渡益に対して別途課税が生じます。この譲渡益課税は、会社分割時の課税(不動産取得税・登録免許税・法人税)とは別に計算します。ただし、売却が分割時点で予定されている場合、その予定は適格分割の判定にも影響し得ます。たとえば、事業を承継した新会社の株式を第三者へ売る設計では、承継法人に対する完全支配関係の継続が見込まれず、非適格となる場合があります。これに対し、国税庁が公表している質疑応答事例では、一定の完全支配関係下で不動産を承継会社へ移し、分割法人である事業会社の株式を売る設計について、承継法人への完全支配を維持する限り、その売却予定が継続要件に影響しないと整理されています。ただし、これは特定の分割類型・支配関係・売却対象株式を前提とした公表事例であり、分割類型、支配関係(完全支配関係か支配関係か)、売却対象株式がこれと異なる場合は、一般化せず別途個別に判定してください。どちらの法人に何を移し、どちらの株式を売るかを一体で判定してください。

計算例——登録免許税・不動産取得税はいくらになるか

以下は、制度上確定できる税率をもとにした簡略化した試算です。前提条件を変えれば結果も変わるため、実際の金額の算定は必ず税理士・司法書士に確認してください。【共通の前提】対象不動産は、土地(固定資産税評価額5,000万円)と、事業用の家屋(住宅以外、固定資産税評価額3,000万円)の合計8,000万円とします。不動産取得税の課税標準は原則として固定資産税評価額(またはこれに準ずる評価額)によるものとし、標準税率は土地3%、住宅以外の家屋4%とします。登録免許税は、国税庁の登録免許税の税額表による区分(売買は土地1000分の15(令和8年度税制改正により2029年3月31日(令和11年3月31日)まで延長された軽減特例)・家屋1000分の20、これら以外の原因による移転は1000分の20)を用います。以上はいずれも簡略化した試算であり、実際の評価額、非課税要件の充足可否、特例の適用期限、地方自治体ごとの取扱いによって結果は異なります。

会社分割の場合

  • 不動産取得税(非課税要件を満たさない場合): 土地5,000万円×3%=150万円、家屋3,000万円×4%=120万円、合計270万円
  • 不動産取得税(非課税要件を満たす場合): 0円
  • 登録免許税: (土地+家屋)8,000万円×2.0%=160万円(非課税要件を満たしても登録免許税は軽減されない)

事業譲渡の場合

  • 不動産取得税: 土地5,000万円×3%=150万円、家屋3,000万円×4%=120万円、合計270万円(経営力向上計画の認定を受けている場合は課税標準から6分の1相当額が控除され得る)
  • 登録免許税: 土地5,000万円×1.5%(軽減特例)=75万円、家屋3,000万円×2.0%=60万円、合計135万円

株式譲渡の場合

  • 不動産取得税: 0円(不動産の名義が変わらないため)
  • 登録免許税(不動産分): 0円(不動産の所有権移転登記が生じないため)
  • 株式の譲渡益に対する所得税・法人税等は別途課税される(本試算には含めていません)

会社分割で非課税要件を満たせる場合、不動産取得税だけを見れば負担が最も軽くなりますが、登録免許税は事業譲渡の方が軽くなる場合があります(会社分割には登録免許税の一般的な軽減措置がないため)。どの手法が総合的に有利かは、不動産取得税・登録免許税に加えて、法人税(譲渡損益の繰延べの有無)、消費税、手続負担、スケジュールまで含めて比較する必要があります。

よくある質問

会社を売る前に、不動産だけ残せますか?

残せる設計は可能です。会社分割によって不動産を元の会社に残し事業だけを承継会社へ移す方法、または不動産を承継会社に集約して不動産を外した元の会社の株式を譲渡する方法があります。事業譲渡で不動産を譲渡対象から外す方法もあります。どちらも、契約承継の方法や税務上の扱いが異なるため、比較表で確認してください。

会社分割なら不動産取得税はかかりませんか?

一律にかからないわけではありません。会社分割によって不動産を取得する会社がある場合、不動産取得税は原則として課税されます。地方税法第73条の7第2号後段・地方税法施行令第37条の14に定める非課税要件(分社型分割では分割対価・主要資産等引継・従業者引継・事業継続の4要件が基本)を満たす場合に限り非課税となります。要件を満たすかどうかは個別の事実関係で判定するため、不動産所在地の都道府県税事務所へ事前に確認してください。

登録免許税はいくらですか?

会社分割による不動産所有権移転登記の登録免許税は、本則で不動産価額の2.0%(1000分の20)です。国税庁の登録免許税の税額表では、相続・法人の合併・共有物の分割による移転は1000分の4とされていますが、会社分割による移転はこの区分には含まれません。不動産取得税の非課税要件を満たしても、登録免許税がこれに連動して軽減されるわけではない点に注意してください。

適格分割なら税金はかかりませんか?

適格分割は非課税ではなく、譲渡損益の繰延べです。適格分割の要件(完全支配関係・支配関係の有無、共同事業要件など)を満たすと、承継資産を税務上の帳簿価額で引き継ぐため、分割時点の含み益に対する法人税は将来へ繰り延べられますが、永久に非課税になるわけではありません。非適格分割では、時価で引き継いだものとして譲渡益に課税されます。また、不動産取得税の非課税要件と法人税の適格要件は判定基準が異なるため、片方を満たしても他方は満たさないことがあります。

事業譲渡との違いは何ですか?

大きな違いは、契約承継の方法と、税務上の扱いです。会社分割は権利義務が法律上当然に承継法人へ移転する包括承継であるため、契約の相手方の個別の承諾が原則不要です。事業譲渡は資産・契約を個別に移転する特定承継であるため、契約ごとに相手方の承諾が必要になります。消費税も、会社分割は不課税ですが、事業譲渡は建物部分に課税されます。不動産取得税・登録免許税の扱いも異なるため、比較表で確認してください。

銀行借入がある不動産でも会社分割できますか?

制度上、担保付きの不動産であることだけを理由に会社分割ができなくなるわけではありません。ただし、融資契約に会社分割を制限・承諾事由とする条項(財務制限条項等)が定められていることが多く、担保設定契約・保証契約の承継方法についても金融機関との調整が必要です。会社分割は権利義務を包括承継するのが原則ですが、融資契約・担保設定等を事前に確認する必要があります。着手前に融資契約書を確認し、必要な承諾を得られるかを金融機関に相談してください。

M&A直前でも会社分割できますか?

制度上、直前の実行が一律に禁止されているわけではありませんが、リスクは高くなります。不動産取得税の非課税要件のうち事業継続要件・従業者引継要件は、分割後も事業が継続することを前提としており、直後に事業を第三者へ売却する予定が判定に影響し得ます。法人税の適格要件も、株式の売却予定が支配関係の継続要件に影響することがあります(国税庁の質疑応答事例では、特定の完全支配関係・売却対象株式を前提に継続要件への影響がないと整理された例がありますが、前提が異なれば個別に判定が必要です)。会社分割は、M&Aのスケジュールが具体化するかなり前の段階で検討・実行しておくことが望ましいとされています。

まとめ——不動産を残すかどうかは、会社分割ありきで決めない

「会社を譲るとき、不動産だけ手元に残せますか?」という問いへの答えは、条件付きで「はい」です。会社分割・事業譲渡のいずれによっても、不動産を譲渡対象から切り離す設計は可能ですが、不動産取得税の非課税要件、登録免許税、消費税、法人税の適格要件、会社法・労働法上の手続は、それぞれ別の基準で判定されます。ある制度で有利でも、別の制度では不利になることもあるため、一つの制度だけを見て手法を決めないでください。まず自分のケースで「不動産を誰に残すか」「事業をいつ譲渡する予定か」を整理したうえで、比較表・判断フローを参考に候補となる手法を絞り込み、契約書・登記事項証明書・財務資料をそろえて税理士・弁護士・司法書士へ具体的に相談することをお勧めします。