◆ 30秒でわかる要約

  • M&Aで会社を譲渡する際、自社ビルや工場用地だけを事前に切り離し、事業のみを承継させる手法として会社分割がよく使われる
  • 会社分割は原則として不動産取得税が課されるが、5つの要件をすべて満たせば非課税になる
  • 要件のうち「対価は株式のみ」「主要資産・負債の移転」「従業員の80%以上引継ぎ」は特に見落としやすい
  • 不動産賃貸業など従業員がほぼいない事業を分割する場合、従業員引継ぎ要件の判定で議論になりやすい

1. なぜ「不動産だけ残す」ニーズが生まれるのか

M&Aで会社を売却する際、買い手が欲しいのは事業そのものであって、社長個人や資産管理会社が持つ本社ビル・工場用地までは引き継ぎたくない、というケースは非常に多くあります。売り手側も、先祖代々の土地や含み益の大きい不動産は手元に残し、事業だけを譲りたいという事情があります。

このようなときに使われるのが会社分割です。事業に必要な資産・負債・契約・従業員を包括的に切り出して別会社(または既存会社)に承継させ、不動産だけを元の会社(または個人)に残す、という設計ができます。

2. 実務のポイント

(1) 会社分割は「原則課税・要件を満たせば非課税」

会社分割によって不動産を承継した場合、不動産取得税は原則として課税されます。ただし、次の要件をすべて満たす場合には非課税となります。

  • 分割対価要件:対価として分割承継法人の株式以外の資産が交付されないこと
  • 主要資産等引継要件:分割事業に関する主要な資産・負債が承継法人に移転していること
  • 従業者引継要件:分割前に事業に従事していた従業員の概ね80%以上が、分割後も引き続き従事する見込みであること
  • 事業継続要件:分割した事業が、分割後も承継法人において引き続き営まれること
  • 按分型分割要件:分割型分割の場合、分割元の株主が持株比率に応じて承継会社の株式を受け取る形であること

現金など株式以外の対価を交付すると、この非課税要件から即座に外れてしまいます。「一部だけ現金精算したい」という要望が出やすい場面ですが、それだけで課税に転じるリスクがある点は事前に伝えておくべきポイントです。

(2) 「不動産だけ切り離す」設計は従業員引継ぎ要件と衝突しやすい

不動産賃貸業のように従業員がほとんど、あるいは全く存在しない事業を分割する場合、従業員引継ぎ要件をどう判定するかが実務上の論点になります。従業員が存在しない場合でも、反復継続的に売上が計上されている実態があれば、事業として継続要件を満たせると扱われることが一般的です。逆に、単に不動産を移すだけで事業実態が伴わなければ、非課税要件は満たせません。

(3) 登録免許税は非課税にならない

不動産取得税が非課税になったとしても、会社分割に伴う不動産の所有権移転登記には登録免許税(固定資産評価額の2.0%)が別途かかります。「非課税だから費用がかからない」という誤解が生じやすいので、不動産取得税と登録免許税は別物であることを明確に説明しておく必要があります。

(4) 法人税は「適格」か「非適格」かで結論が変わる

会社分割に伴う法人税の扱いは、税制適格要件を満たす「適格分割」か、満たさない「非適格分割」かによって大きく異なります。適格分割であれば資産は簿価で引き継がれ譲渡益は生じませんが、非適格分割では時価で引き継いだものとして譲渡益に課税されます。不動産取得税の非課税要件と法人税の適格要件は似て非なる基準であり、片方を満たしても他方は満たさないケースもあるため、両方を個別に検証する必要があります。