◆ 30秒でわかる要約

  • 収益物件の売却で消費税がかかるのは建物部分だけ土地は非課税のため、売買代金の全額に10%がかかるわけではありません
  • 建物に消費税がかかるのは課税事業者が事業として譲渡する場合。個人か法人かではなく課税事業者かどうかで決まります
  • 免税事業者なら納税義務はありませんが、売却代金は課税売上高に算入されるため翌年・翌々年に課税事業者になることがあります
  • 納税額は原則課税か簡易課税かで大きく変わり得ます。事業用建物の売却は簡易課税では第4種事業(みなし仕入率60%)。ただし簡易課税は前課税期間の末日までの届出が必要で、売却してから選ぶことはできません
  • 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了。免税事業者からの仕入れに係る控除割合も2026年10月以降70%→50%→30%と縮小され、年間1億円の上限が新設されます(令和8年度税制改正)

まず確認したいこと(簡易チェック)

  • 売主は課税事業者か(基準期間・特定期間の課税売上高、インボイス登録の有無)
  • 売買契約書で土地と建物の対価が区分されているか
  • 「消費税簡易課税制度選択届出書」を前年末までに提出しているか
  • 過去3年以内に税抜1,000万円以上の建物等(高額特定資産)を取得していないか
  • 売る建物を居住用賃貸建物として取得し、まだ3年目の課税期間が終わっていないか

収益物件を売却して消費税がかかるのは「建物」だけ——土地は非課税

不動産売買における消費税の大原則は、土地は非課税、建物は課税というシンプルな線引きです。土地の譲渡および貸付けは消費税法上の非課税取引とされており、土地の値段がどれだけ高額でも消費税はかかりません。したがって「売買代金の全額に10%がかかる」ということはありません。

売買代金の内訳

消費税の扱い

土地の対価

非課税

建物の対価

課税(税率10%)

建物附属設備・構築物など建物以外の課税資産

課税(税率10%)

固定資産税・都市計画税の未経過分の精算金

資産の譲渡の金額に含まれる(建物分は課税・土地分は非課税)

ただし、建物に消費税が課されるのは「事業者が事業として」行う譲渡に限られます。「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡および貸付けならびに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいい、個人事業者が生活の用に供している資産(自宅など)を譲渡する場合は「事業として」に該当しません(消費税法基本通達5-1-1)。収益物件は賃貸事業に使っている資産ですから、その売却は「事業として」行う資産の譲渡にあたります。

自分は消費税を納めるのか——3つの条件で判定する

「収益物件を売れば必ず消費税を納める」わけではありません。納税義務が生じるのは、次の3つがすべて当てはまるときです。

  1. 売主が事業者であること
  2. その譲渡が事業として行われること(収益物件の売却は該当、自宅の売却は非該当)
  3. 売主がその課税期間において課税事業者であること

3つ目でつまずくケースが最も多く、ここが「個人でも消費税がかかるのか」という疑問の答えになります。個人か法人かは結論を分ける基準ではありません。個人であっても課税事業者なら建物部分に消費税がかかり、法人であっても免税事業者ならその課税期間の納税義務はありません。

課税事業者に当たるかどうかの判定

判定要素

内容

基準期間の課税売上高

個人は前々年、法人は原則として前々事業年度。1,000万円を超えれば課税事業者

特定期間の課税売上高

個人は前年1月1日〜6月30日、法人は前事業年度開始の日以後6か月。1,000万円を超えれば課税事業者。ただし課税売上高に代えて給与等支払額の合計額で判定してもよい

インボイス発行事業者の登録

登録を受けていれば、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも納税義務は免除されない

消費税課税事業者選択届出書

提出していれば1,000万円以下でも課税事業者

相続があった場合の特例

被相続人の課税売上高を加味して判定する(消費税法10条)

高額特定資産を取得した場合

取得の課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで、事業者免税点制度は適用されない

ここで見落としやすいのが、住宅の家賃は非課税売上なので「課税売上高」に含まれないという点です。住宅用アパートだけを持っているオーナーは、家賃収入が年3,000万円あっても課税売上高はほとんどなく、免税事業者であることが珍しくありません。一方、事務所・店舗の賃料や駐車場の収入は課税売上です。住宅として転貸されるサブリースの賃料の扱いについてはサブリースの家賃保証、その裏にある消費税と法律の論点で、民泊の宿泊料が課税される理由については民泊収入は原則『雑所得』|不動産所得・事業所得との違いで解説しています。

個人が売る場合と法人が売る場合の違い

個人事業者は生活用の資産事業用の資産を区別します。自宅を売っても消費税の課税対象外ですが、賃貸に出している収益物件を売れば「事業として」行う資産の譲渡です。これに対して法人が行う資産の譲渡および貸付けならびに役務の提供は、その全てが「事業として」に該当します(消費税法基本通達5-1-1(注)2)。法人には「生活用の資産」という区分がないため、保有目的にかかわらず建物の譲渡は課税取引になります。

したがって、資産管理会社などの法人で収益物件を保有している場合、分岐点は売却の時点でその法人が課税事業者かどうかの一点です。法人化そのものの考え方は賃貸収入が増えてきたら考えたい「資産管理会社」を参照してください。

免税事業者のまま売却したらどうなるか

免税事業者であれば、その課税期間の建物売却について消費税の納税義務はありません。ただし注意点が2つあります。

1つ目は、売却が将来の納税義務判定に効いてくることです。建物の売却代金は課税売上高に算入されるため、売却した年の課税売上高が1,000万円を超えれば、その翌々年(法人は翌々事業年度)は課税事業者になります。売却が上半期であれば、特定期間の判定によって翌年から課税事業者になることもあります(この場合、給与等支払額による判定を選べば免税事業者にとどまる余地があります)。売却の翌年以降に大規模修繕や別物件の取得を予定しているなら、この点は資金計画に影響します。

2つ目は、買主側の仕入税額控除です。免税事業者はインボイスを発行できないため、買主は原則として建物にかかる消費税相当額を控除できません。経過措置により一定割合の控除は認められますが、その割合は2026年10月以降さらに縮小します。買主から価格の引き下げを求められる場面が実際に生じます。

建物にかかる消費税はいくらか——出発点は土地と建物の区分

建物にかかる消費税は建物の対価(税抜)×10%です。軽減税率の対象ではありません。したがって「消費税はいくらか」を知るには、まず売買代金のうち建物がいくらなのかを決める必要があります。

土地と建物の対価をどう区分するか

土地と建物を同一の相手に対して同時に譲渡した場合、それぞれの資産の譲渡の対価について合理的に区分しなければなりません(消費税法施行令45条3項、消費税法基本通達10-1-5)。実務では次の方法が使われます。

  • 売買契約書に建物の消費税額等が記載されている場合、そこから建物価額を逆算する(消費税額等÷10%=建物の税抜価額)
  • 土地と建物のそれぞれの時価の比で按分する
  • 固定資産税評価額の比で按分する
  • 所得税または法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例の計算における取扱いにより区分しているときは、その区分したところによる(消費税法基本通達10-1-5)

合理的に区分されていない場合は、それぞれの譲渡に係る通常の取引価額を基礎として区分することになります(同通達(注))。どの方法を採るかによって課税対象額そのものが動くため、採用した方法の根拠を説明できるようにしておくことが必要です。買主にとっては建物価額が大きいほど減価償却費と仕入税額控除が増え、売主にとっては消費税の負担が増えるという、売主と買主の利害が対立する論点でもあります。

固定資産税・都市計画税の精算金も譲渡の対価に含まれる

収益物件の売買では、引渡日を基準に固定資産税・都市計画税を日割精算するのが一般的です。この未経過分に相当する金額は、売買代金とは別に収受していても資産の譲渡の金額に含まれます(消費税法基本通達10-1-6)。したがって建物に対応する部分は課税対象です。「税金の精算だから消費税はかからない」という処理は誤りですので、精算金も土地分と建物分に区分してください。

原則課税と簡易課税——同じ売却でも納税額はここまで変わる

項目

原則課税(一般課税)

簡易課税

控除する仕入税額

実際の課税仕入れ等に係る消費税額

売上げに係る消費税額×みなし仕入率

事業用建物の売却の扱い

実額で計算

第4種事業(みなし仕入率60%)

適用要件

とくになし(原則的な計算方法)

基準期間の課税売上高5,000万円以下、かつ前課税期間の末日までに届出

課税売上割合の影響

受ける(95%未満なら控除が制限される)

受けない

有利になりやすい場面

大規模修繕や物件取得など課税仕入れが多い年

課税仕入れが少ない年

継続適用

原則として2年間

計算例1 事務所ビルを2億1,000万円で売却した場合

前提

  • 売主は個人事業者で課税事業者。物件は事務所・店舗用(住宅ではない)
  • 売買代金2億1,000万円の内訳は、土地1億円(非課税)、建物 税抜1億円+消費税等1,000万円
  • その年の他の課税売上はないものとする
  • 仲介手数料等の課税仕入れに係る消費税額は60万円(土地と建物の売却に共通して要するもの)
  • 簡易課税を適用する場合は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、前年12月31日までに届出書を提出済みとする

原則課税の場合

  • 売上げに係る消費税額: 1,000万円
  • 課税売上割合: 1億円÷(1億円+1億円)=50%。95%未満なので課税仕入れの全額は控除できない
  • 一括比例配分方式による控除税額: 60万円×50%=30万円
  • 納付税額: 1,000万円−30万円=970万円

簡易課税の場合

  • 事業用建物の売却は第4種事業(みなし仕入率60%)
  • 控除税額: 1,000万円×60%=600万円
  • 納付税額: 1,000万円×(1−60%)=400万円

同じ取引で570万円の差です。簡易課税では課税売上割合の低下が納税額に影響しないため、土地と建物を一括で売る年ほど差が開きやすくなります。なお、以上は消費税・地方消費税の合計額による単純化した概算です。実際の納付税額は国税分と地方消費税分を分けて計算し、それぞれ端数処理を行うため一致しません。控除対象仕入税額も、実際の課税仕入れの内容、個別対応方式か一括比例配分方式か、その年の他の取引の状況によって変わります。

簡易課税の事業区分は「取引ごと」に判定する

簡易課税のみなし仕入率は、事業者や業種を一括りにして決まるのではなく、原則としてその事業者が行う課税資産の譲渡等ごとに事業区分を判定して適用します(消費税法基本通達13-2-1)。不動産関係では次のとおりです。

取引

事業区分

みなし仕入率

事務所・店舗など課税対象となる不動産の貸付け

第6種事業(不動産業)

40%

自己において使用していた建物(固定資産)の譲渡

第4種事業

60%

住宅の貸付け

非課税(課税売上に含まれない)

「事業者が自己において使用していた固定資産等の譲渡を行う事業は、第四種事業に該当する」と通達で明示されています(消費税法基本通達13-2-9)。賃貸に使っていた収益物件の売却は、不動産業を営んでいても第6種ではなく第4種で判定するのが基本です。なお、転売目的で仕入れた建物(棚卸資産)の譲渡は「自己において使用していた固定資産」に当たらないため第4種事業には該当せず、取引の実態に応じて別の事業区分で判定することになります。長期保有の賃貸物件なのか転売用の在庫なのかで扱いが変わる点に注意してください。

計算例2 同じ年に事務所家賃と建物売却がある場合

複数の事業区分にまたがる年は区分経理が前提になります。事務所家賃(第6種)の課税売上が税抜1,000万円、建物売却(第4種)の課税売上が税抜1億円で、売上げに係る消費税額が合計1,100万円だとします。

  • 原則的な計算: 100万円×40%+1,000万円×60%=640万円を控除 → 納付460万円
  • 1種類の事業が75%以上の場合の特例: 第4種の課税売上高が全体の約91%(1億円÷1億1,000万円)で75%以上のため、全体の課税売上げに60%を適用できます。1,100万円×60%=660万円を控除 → 納付440万円
  • 事業ごとに区分していない場合: 区分していない部分は、区分していない事業のうち最も低いみなし仕入率(この例では第6種の40%)で計算 → 1,100万円×40%=440万円を控除 → 納付660万円

区分経理をしているかどうかで220万円の差が出ます。売却する年は、家賃も売却代金も帳簿上で事業区分を明示しておいてください。そのうえで、実際の課税仕入れの割合がみなし仕入率を上回るか下回るかで有利不利が逆転します。仕入(経費)が少ない業態は簡易課税が有利になりやすい一方、大規模修繕や新規物件購入など多額の課税仕入れが発生する年は原則課税の方が有利になることもあります。

簡易課税の届出は「前もって」しかできない

簡易課税を選択するには、原則として適用したい課税期間が始まる前(前課税期間の末日まで)に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しておく必要があります。「今年、物件を売却したら簡易課税の方が有利だった」と後から気づいても、原則としてその年に遡って選択することはできません。これが実務上の最大の落とし穴です。

ただし特則があります。事業を開始した課税期間や相続があった場合のほか、令和8年度税制改正で創設された簡易課税への円滑な移行措置により、2割特例または3割特例の適用を受けた翌課税期間については、その課税期間の申告期限までに届出書を提出すれば、その課税期間から簡易課税の適用を受けられます。該当しそうなときは提出期限を個別に確認してください。

また、届出をしていても基準期間の課税売上高が5,000万円を超える課税期間については簡易課税を適用できず、原則課税になります。物件の売却代金そのものが基準期間の課税売上高を押し上げ、翌々年の簡易課税適用を失わせることもあります。簡易課税は原則として2年間の継続適用となる点も含め、単年度の損得だけで判断しないでください。

原則課税なら「課税売上割合」の低下に注意

原則課税で控除できる仕入税額は、課税売上割合の影響を受けます。住宅の家賃や土地の売却代金は非課税売上であるため、土地建物を一括売却した年は課税売上割合が大きく低下します。

課税売上割合が95%未満なら全額控除できない

その課税期間における課税売上高が5億円以下、かつ課税売上割合が95%以上であれば、課税仕入れ等に係る消費税額の全額を控除できます。しかし課税売上高が5億円超、または課税売上割合が95%未満のときは、次のいずれかの方法で控除税額を計算します。

  • 個別対応方式: 課税仕入れ等を「課税売上げにのみ要するもの」「非課税売上げにのみ要するもの」「共通して要するもの」に区分し、仕入控除税額=(課税売上げにのみ要するもの)+(共通して要するもの×課税売上割合)で計算する
  • 一括比例配分方式: 仕入控除税額=課税仕入れ等に係る消費税額×課税売上割合。区分は不要だが、選択した場合は2年間以上継続して適用した後でなければ個別対応方式に変更できない

収益物件の売却では、土地の対価が大きいほど課税売上割合が下がるため、どちらの方式を採るかが納税額を左右します。売却年の消費税は、割合の変動まで含めて事前に試算しておいてください。

「たまたま土地の譲渡があった場合」の救済措置

土地の譲渡に伴う課税仕入れの額はその譲渡金額に比べて一般的に少額であるため、課税売上割合をそのまま適用すると事業の実態を反映しないことがあります。そこで国税庁は、土地の譲渡が単発のものであり、かつ、その土地の譲渡がなかったとした場合に事業の実態に変動がないと認められる場合に限り、次のいずれか低い割合による「課税売上割合に準ずる割合」の承認を与えて差し支えないとしています(国税庁 質疑応答事例)。

  • 土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合
  • 土地の譲渡があった課税期間の前課税期間の課税売上割合

ここでいう「事業の実態に変動がないと認められる場合」とは、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内である場合をいいます。手続面では次の点に注意してください。

  • 「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出し、納税地の所轄税務署長の承認を受ける必要がある。承認審査には一定の期間がかかるため、時間的余裕をもって提出する
  • 適用を受けようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、その翌日以後1月を経過する日までに承認を受けた場合は、申請書を提出した日の属する課税期間から適用される
  • この承認はたまたま土地の譲渡があった場合に行うものなので、適用した課税期間の翌課税期間に「消費税課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を提出する。提出がないと、承認を受けた日の属する課税期間の翌課税期間以降の承認は取り消される

なお、課税売上割合が95%未満かどうかの判定自体は、準ずる割合について承認を受けているかどうかにかかわらず本来の課税売上割合によって行います(消費税法基本通達11-5-9)。

売却前後の3年間を縛る制度——高額特定資産と居住用賃貸建物

高額特定資産を取得すると3年間は簡易課税を選べない

一の取引の単位につき税抜1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産(高額特定資産)を、原則課税が適用される課税期間中に取得した場合、その仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで、事業者免税点制度は適用されません。さらに、その期間中は「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出できません

収益物件の建物価額は税抜1,000万円以上になることがほとんどです。つまり物件を買い増した直後の3年間は、簡易課税に切り替えられないということです。「売却の年は簡易課税が有利だから届出を出そう」と考えても、直近に物件を取得していると提出そのものができません。売却と取得のタイミングは、必ずセットで検討してください。

居住用賃貸建物は取得時に控除できないが、譲渡すれば調整できる

令和2年度改正により、居住用賃貸建物(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物のうち、高額特定資産等に該当するもの)の課税仕入れ等に係る消費税額は、仕入税額控除の対象外とされています(消費税法30条10項)。住宅用アパートを購入しても、その建物にかかる消費税は控除できません。

ただし救済があります。その居住用賃貸建物の全部または一部を調整期間——居住用賃貸建物の仕入れ等の日から第三年度の課税期間(仕入れ等の日の属する課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間)の末日までの間——に他の者に譲渡したときは、その課税仕入れ等の税額に課税譲渡等割合を乗じて計算した金額に相当する消費税額を、譲渡をした課税期間の仕入れに係る消費税額に加算できます(消費税法35条の2第2項)。取得からおおむね3年以内の売却を検討しているなら、この調整の適用があるかを必ず確認してください。なお、この調整の対象となるのは課税事業者で、免税事業者は対象外です。

なお、建物の一部が店舗用の構造・設備になっているなど「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分」がある場合は、使用面積割合や使用面積に対する建設原価の割合などの合理的な基準で区分すれば、その部分は控除制限の対象外となります(消費税法基本通達11-7-3)。

相続で取得した収益物件を売る場合の納税義務判定

相続により被相続人の賃貸事業の全部または一部を継続して行うため収益物件等を承継した場合、納税義務は消費税法10条の特例で判定します。単純に売上を合算するわけではありません。

  • 相続があった年: 相続人自身の基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、被相続人の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるときは、相続開始日の翌日からその年12月31日までの取引について納税義務が生じます
  • 相続があった年の翌年・翌々年: 相続人の基準期間の課税売上高と被相続人の基準期間の課税売上高との合計額が1,000万円を超える場合に納税義務が生じます
  • 共同相続の場合: 相続財産の分割が実行されるまでの間は各相続人が共同して事業を承継したものとして扱い、被相続人の基準期間の課税売上高に各相続人の民法上の相続分に応じた割合を乗じた金額で判定します(消費税法基本通達1-5-5)

また、被相続人が提出していた簡易課税制度選択届出書等の効力は相続人に引き継がれません。相続人が簡易課税の適用を受けるには、自ら所定の届出を行う必要があります。

相続があった年に物件を売却する場合は、相続開始日と売却日の前後関係によって判定の区分や納税義務者が変わるため、必ず時系列を確認してください。固定資産の譲渡の時期は、別に定めるものを除きその引渡しがあった日です。ただし土地・建物その他これらに類する資産については、事業者がその譲渡に関する契約の効力発生の日を譲渡の時期としているときは、これが認められます(消費税法基本通達9-1-13)。相続の前後で有利な日を任意に選べるものではありません。

なお、特定遺贈または死因贈与によって受遺者・受贈者が事業を承継したときは消費税法10条の規定は適用されず、その受遺者・受贈者自身の基準期間の課税売上高のみによって判定します(消費税法基本通達1-5-3(注))。

本人単独では免税事業者の水準でも、この特例判定によって課税事業者に該当するケースは珍しくありません。「免税事業者のつもり」のまま売却を進めると、簡易課税の届出をしていない限り原則課税で計算することになります。相続した物件を売却して代金を分ける場合の分割方法の選び方は兄弟で相続した実家を売る、その代金の分け方が命運を分けますで扱っています。

2026年10月からの制度変更——2割特例の終了と7・5・3割控除

2割特例は2026年で終了し、個人事業者には3割特例が創設された

インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった方向けの2割特例は、令和5年10月1日から令和8年(2026年)9月30日までの日の属する各課税期間が対象です。個人事業者は2026年分が最後になります。

令和8年度税制改正では、その後を受けて3割特例が創設されました。納付税額を売上税額の3割とできる特例で、主な適用要件は次の3つです。

  • 個人事業者であること(法人には適用されません)
  • 基準期間(適用を受ける年の2年前。令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)の課税売上高が1,000万円以下であること
  • インボイス発行事業者の登録を受けていること

対象は令和9年分・令和10年分です。ここで重要なのは、収益物件を売却した年の課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後は3割特例を使えないという点です。売却そのものは単年で終わっても、税務上の影響は3年にわたって続きます。

免税事業者から買う側の控除割合が縮小し、1億円の上限が新設される

免税事業者などインボイス発行事業者以外の者から行った課税仕入れについて、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置は、適用期限が2年延長されたうえで控除割合が見直されました

期間

控除できる割合

2026年9月30日まで

80%

2026年10月〜2028年9月

70%

2028年10月〜2030年9月

50%

2030年10月〜2031年9月

30%

さらに、一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年または事業年度で1億円(改正前は10億円)を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて経過措置を適用できません。この見直しは令和8年(2026年)10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

収益物件の建物価格は1億円を超えることが珍しくありません。免税事業者であるオーナーから物件を購入する買主は、経過措置による控除もほとんど受けられなくなる可能性があります。これは買主側の仕入税額控除の論点ですが、売主にとっては売却価格の交渉に直結する問題です。免税事業者のまま売却するのか、インボイス登録をして課税事業者として売却するのかは、早めに試算しておくべき判断です。

消費税と譲渡所得税・法人税は別の税金

収益物件を売却したときにかかる税金は消費税だけではありません。売却益に対する税金(個人なら所得税・住民税、法人なら法人税等)は、消費税とはまったく別の計算です。混同しないでください。

比較項目

消費税

譲渡所得税・法人税等

課税の対象

建物の対価(土地は非課税)

売却益(譲渡収入−取得費−譲渡費用)

売却損が出た場合

損が出ても建物の対価に対して課税される

売却益がなければ課税されない

免税事業者の場合

その課税期間の納税義務なし

免税事業者かどうかは関係なく課税される

土地の扱い

非課税

土地の売却益も課税対象

とくに誤解が多いのが、売却損が出ていても消費税は発生するという点です。消費税は「もうけ」ではなく「取引」に課される税金だからです。取得費が分からない場合の譲渡所得の計算は相続した不動産を売ったら、売却額の9割超に課税される?を、売却益の課税を繰り延べる制度は事業用不動産を買い換えるなら、譲渡税を8割繰延べできますを参照してください。

よくある質問

売買代金の全額に10%の消費税がかかるのですか

いいえ。土地の対価は非課税で、消費税がかかるのは建物の対価だけです。土地1億円・建物1億円で売った場合、消費税の課税対象は建物1億円のみで、消費税額は1,000万円です。

個人が売る場合は消費税がかからないと聞きましたが本当ですか

正確ではありません。「個人だから非課税」ではなく、免税事業者だから納税義務がないという話です。個人でも課税事業者であれば建物部分に消費税がかかります。なお、自宅の売却は「事業として」行う資産の譲渡に当たらないため課税対象外ですが、賃貸に出している収益物件は事業用の資産です。

住宅用アパートを売る場合も建物に消費税はかかりますか

かかります。住宅の「貸付け」は非課税ですが、住宅用建物の「譲渡」は課税取引です。ただし、住宅家賃だけが収入のオーナーは課税売上高がほとんどなく免税事業者であることが多いため、結果として納税義務が生じないケースは少なくありません。その場合でも、売却によって翌年または翌々年に課税事業者になる可能性があります。

今年売却するのですが、今から簡易課税を選べますか

原則として選べません。簡易課税は適用したい課税期間が始まる前までに届出が必要です。今年の売却に簡易課税を適用したいのであれば、前年12月31日まで(法人は前事業年度末まで)に提出しておく必要がありました。2割特例・3割特例からの移行など一部に特則はありますが、原則は事前届出です。売却を検討し始めた段階で、翌年以降の届出スケジュールを逆算してください。

売却した年の消費税はいつ申告・納付するのですか

個人事業者の課税期間は1月1日から12月31日までで、12月31日の属する課税期間の確定申告と納税の期限は翌年3月31日です(所得税の確定申告期限3月15日とは異なります)。法人は原則として課税期間の末日の翌日から2か月以内です。売却代金を先に使ってしまうと納税資金が不足するため、受領した消費税相当額は別管理にしておくことをお勧めします。

売買契約書に消費税額の記載がない場合はどうなりますか

消費税額の記載がなくても、課税事業者が事業として建物を譲渡していれば納税義務は発生します。この場合、売買代金を土地と建物に合理的に区分したうえで建物の対価に含まれる消費税額を計算します。合理的に区分されていないときは、それぞれの譲渡に係る通常の取引価額を基礎として区分することになります(消費税法基本通達10-1-5)。売主と買主で建物価額の認識が食い違うと後日のトラブルにつながるため、契約書に土地・建物の内訳と消費税額を明記しておくことが実務上の鉄則です。

実務のポイント

  • 売買代金のうち建物だけが課税対象。土地は非課税。まず契約書で内訳を確認する
  • 納税義務の有無は個人か法人かではなく、課税事業者かどうかで決まる
  • 簡易課税は前課税期間の末日までの届出が必要。売却してから選ぶことはできない
  • 事業用建物の売却は簡易課税では第4種事業(60%)。家賃と売却が同じ年にあるなら区分経理75%以上の特例を確認する
  • 原則課税なら課税売上割合の低下と「課税売上割合に準ずる割合」の承認申請を検討する
  • 直近3年以内の高額特定資産の取得と、居住用賃貸建物の譲渡時の調整を必ず確認する
  • 売却は翌年・翌々年の納税義務や3割特例の可否にも影響する。単年で判断しない
  • 消費税と譲渡所得税・法人税は別計算。売却損が出ても消費税は発生する

本記事は2026年8月時点で公表されている法令・通達等に基づく一般的な解説です。制度の適用可否は個別の事実関係によって変わり、金額も大きくなりやすい論点ですので、実際の売却前に税理士へ確認してください。